コロナ問題一色のワイドショー それぞれの番組が打ち出す立場とは? その場のノリで話す坂上忍らを分析してみた

写真はイメージです。

新型コロナウイルスの緊急事態宣言によって、テレビのワイドショーはコロナ問題一色になった。それぞれの番組が独自の立場を打ち出しているかといえば、そうではない。

PCR検査数の低迷に対する政府批判、出口戦略の「大阪モデル」を示した吉村洋文大阪府知事への賛辞であふれている。吉村知事は5月16日から休業要請の段階的解除に踏み切ったが、コロナ問題を取り上げるワイドショーのコメンテーターにどんな特徴があるのだろうか。

政府のコロナ問題の取り組みに対する国民の評価は低下傾向を示している。読売新聞が11日に発表した世論調査(8~10日)では、政府の対応について「評価しない」が58%に達し、前回3月から19ポイント増えた。「評価する」は53%から34%に下がり、逆転。こうした状況を反映し、ワイドショーのコメンテーターは一様に政府に辛口だ。

5月8日放送のフジテレビ「バイキング」では、加藤勝信厚生労働相が「37.5度以上の発熱が4日以上」というPCR検査に向けた受診の目安が要件と誤解されたという国会答弁の映像のあと、司会の坂上忍氏が「何を言っているんでしょうか、フニャフニャ」と切り捨てた。視聴した連日のワイドショーの中で専門家会議の学者に対する追及を繰り返す大学教授はいたが、政治家個人への批判で生ホンネトークバラエティーと銘打つ番組の坂上氏のコメントは突出していた。

安倍晋三首相が緊急事態宣言の延長を発表した翌5日の「とくダネ!」では、司会の小倉智昭氏は「きのうの首相会見で、PCR検査が20000件といいながらまだ8000件だったことに保健所が忙しいといって、1カ月前と言っていることが変わらない」と批判。

安倍政権に近い発言が多いとも指摘される八代英輝弁護士も、6日のTBS「ひるおび!」で経済活動再開について「政府は何らかの指針を示していただきたい」と注文をつけた。

平日だった4~8日の午前8時~午後2時に視聴したワイドショーで、政府の政策を評価が目についたのは、8日の「スッキリ」にコメンテーターとして出演した日本感染症学会専門医の佐藤昭裕氏ぐらいだった。

司会の加藤浩次氏から「日本は死者数が少なくすんでいる」とふられ、佐藤氏は「(日本は)対策としてはうまくいっていた。ただ、PCR検査の問題はあったが」と述べていた。

民放ワイドショーの元プロデューサーは「情報番組では一つのネタに時間を20分ほど割かれる。『議論できるかどうか』『視聴者が怒りや喜びを共有できるかどうか』がニュースバリューを左右する」と指摘する。つまり、視聴者の感情に沿ったネタが選択される傾向にある。

スポーツ紙のサイトでは最近、コロナ問題に関するワイドショーのコメンテーターや大学教授の注目発言を速報している。こうした記事に対して数多くのコメントが寄せられ、関心の高さがうかがえる。従来、高視聴率番組「サンデーモーニング」の人気コーナーの出演者張本勲氏の発言をスポーツ紙サイトで取り上げてきたのと似た現象といえる。

コロナ問題で収録が中止され再放送や総集編を流すドラマ、バラエティー番組を尻目に、ニュースやワイドショーの視聴率は上がっている。司会者やコメンテーターがリモート出演するようになった。

しかし、専門家(今回は感染症に詳しい医師ら)をゲストに招いたうえでレギュラーのコメンテーターが感想を述べる形式に変化はない。
しかも、世論が割れ番組で対立する意見が交わされた集団的自衛権をめぐる安保法制問題のときなどとは違い、PCR検査をはじめとした政府の不手際にコメンテーターらが苦言を呈する構成はほとんどのワイドショーに共通する。

番組の独自性を打ち出すよりも、断定口調の「強さ」を競うことで視聴率を取ろうとする姿勢が浮き彫りになったのが、5月現在のワイドショーのコロナ報道の特徴だ。

ワイドショーを席巻した話題を思い起こせば、2016年がベッキーの不倫問題、17年が日馬富士の暴行騒動、18年が日大アメフト部タックル問題、19年は韓国法相の辞任問題だった。

そして今年はコロナ問題になった。すべてが日本社会にとって最も重視すべきテーマだったわけではない。世間の興味の指標となる視聴率を追い求めることは、ワイドショーの宿命でもある。各民放がコロナ問題を連日そろって取り上げているのは、視聴者の関心のありかが共通していることを示している。(文◎川本裕司 朝日新聞社会部)

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