夏の甲子園中止

 「まんが」は高知県、「俳句」は愛媛県。科学、観光、ダンスにスイーツ、生け花に理美容に「うまいもん自慢」…少し調べてみたらあるわあるわ、高校生らが活動の成果を全国規模で競ういろんなジャンルの「甲子園」▲もちろん、たくさんのスポーツの中で「野球」だけが“特別”である道理などないが、夏のあの大会、あの空間が特別に注目され、愛されてきたことの表れ-とは言えるかもしれない。「夏の甲子園」全国高校野球大会の中止が決まった▲新型コロナウイルスの感染に“一服感”も広がるさなかの決定である。だが、多人数の移動や長期宿泊のリスク、他の競技や大会とのバランスなどを思えば、やはり、やむを得ない結論と考えるほかないのだろう▲〈今やかの三つのベースに人満ちて/そゞろに胸のうち騒ぐかな〉-正岡子規が「満塁」の緊張感を詠んだ有名な一首だ。野球をこよなく愛した彼は、若者たちの失意と無念にどんな言葉を掛けるだろうか▲さだまさしさんの「甲子園」は、優勝校以外のチームが全て一度だけ敗れて去ることを歌い「最初で最後の打席に臨む背番号14」に温かな視線を送る。区切りの舞台は何とか用意されそうだが▲勝って泣き、負けて泣く-そのどちらでもない球児の涙は、できることなら見たくなかった。(智)

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