オンラインで魚直送に活路 漁師“直伝”の味を全国に 漁師の細井さん「対馬の魚で心癒して」

ビデオ会議アプリを使ってレンコダイの調理方法をレクチャーする細井さん=対馬市上対馬町古里、細井さん宅

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う宴会自粛で魚の需要が低迷する中、対馬市上対馬町の一本釣り漁師、細井尉佐義(いさよし)さん(48)はネットベンチャー企業と組んで魚を直送し、ビデオ会議システムを使って全国の消費者に魚料理を教える取り組みを始めた。
 細井さんは鹿町町出身。東京で会社員などを経て2001年、対馬に移住した。地元漁師の下で修業し05年、漁船「海子丸(かいこまる)」を手に入れて独立。上対馬町特産の高級魚アマダイなどを釣って生計を立てている。しかし、新型コロナの感染拡大でアマダイは主な流通先の京都市場では料亭が休業して従来の半値ほどまで値崩れが起き、漁師の生活に影響が出ているという。
 今回利用したのは19年設立のネットベンチャー「hakken(ハツケン)」(京都市)が4月中旬に始めたサービス「#いえつなキッチン」。家でつながるキッチンタイムをコンセプトに食材を消費者宅に届け、消費者は指定時間にビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使って飲食店のシェフや漁業者・農業者と一緒に料理し、コミュニケーションできる。
 細井さんは「#いえつなキッチン」のサイト上に、海子丸キッチンと名付けたチャンネルを開設し、配送料(約3千円)も含め7千円で参加者を募集。13日に対馬沖で一本釣りし、血抜きして鮮度を保った旬のレンコダイなど約3キロを東京など1都4県の消費者10人に配送した。16日夕、自宅でタブレット端末を通じてオンライン中継を始めた。
 細井さんはまず、新型コロナで自宅待機中の参加者に「対馬の魚で少しでも心を癒やしてもらえたら」と呼び掛け、レンコダイの刺し身、カルパッチョ、ソテーの作り方を実演。魚料理に慣れていない人にも分かるよう包丁さばきや味付けのこつを解説しながら料理を仕上げた。
 参加者は料理を味わいながら、一緒に送られてきたアマダイの食べ方や対馬での漁師生活について質問。細井さんは「魚は対馬で食べるともっとおいしい。新型コロナが収束したらぜひ対馬に来て味わってほしい」とPRし、約2時間の中継を終えた。
 千葉県から参加した水産会社役員で、対馬に釣りに来たこともあるという十河(そごう)哲朗さん(35)は取材に「千葉はまだ緊急事態宣言中で、外食できない。いろんな魚を送ってもらい、まるで目の前に対馬の大海原が広がっているような時間を楽しめた」と話した。
 hakkenの竹井淳平代表(35)は「家にいても、全国各地の生産者と直接つながり、一番おいしい食べ方を教わることができる。新型コロナによる社会変化を機に、新たな流通の形を生み出すことができれば」と話している。

 


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