現金給付の混乱、日本だけじゃない

 死者の口座に振り込み、番号、金額間違い…失業者3千万人超の米国

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 米国は、3月末には総額2兆2000億ドル(約236兆円)という史上最大規模の救済措置をスピード成立させた。個人向けの現金給付や失業給付の拡充などで、当面の国民生活を支えるスキームだった。ところが、あまりにも急激な失業者増と政府の旧式なコンピューターシステムのせいで、こうした救済給付は困窮する国民や事業主の手に順調に渡されたとはとても言えない状況になっている。5月中旬までの2カ月で3860万人が失業した米国。失業給付の申請さえままならないドタバタぶりは、漏れ聞こえてくる日本の現金給付の混乱とも重なる。現状を報告する。(テキサス在住、ジャーナリスト=片瀬ケイ)

3月27日、米ホワイトハウスで経済対策法案に署名するトランプ大統領(AP=共同)

 ▽スムーズに進むかに見えた支給

 日本では一律10万円の現金給付が実施されているが、CARES法と略される米国の「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法」にも、個人向け救済給付金が盛り込まれている。支給額は、世帯収入が年間15万ドル(約1600万円)以下の成人には一人当たり1200ドル(約12・8万円)、17歳以下の子供には500ドル(約5・3万円)。所得上限を超える人には、減額支給される。

 休業や失業で収入が滞り、早急に資金が必要な国民も多数いる。連邦政府は4月中旬からの支給開始をめざし、連邦歳入庁も早々に個人が救済金支払い状況をチェックしたり、支払い方法を指定したりできるウェブページを設置した。

 米国民には、日本のマイナンバーに相当する社会保障番号が付与されている。一定以上の収入がある人は雇用形態にかかわらず、連邦歳入庁への所得税申告が義務づけられている。このため連邦歳入庁でほとんどの国民の住所や家族形態、所得税を還付する際の銀行口座情報も把握しており、支給はスムーズに進むかに見えた。

人けのない米ニューヨーク市のタイムズスクエア=11日(UPI=共同)

 ▽60年前のプログラムで対応

 4月下旬には給付金が振り込まれたという人もいたが、大多数はウェブサイトで状況確認しようにも、エラーメッセージばかりだった。ハイテクを誇る米国のはずが、連邦歳入庁や各州政府のコンピューターシステムは、長年アップデートされておらず、60年前のプログラム言語「COBOL」を使ったメインフレーム。あちらこちらで問題が起こるたびに、COBOL言語スキルを持つ往年のプログラマーを探す騒ぎとなった。

 5月中旬までには大部分の人が支給を受けたとはいえ、米国民の9割以上が支給対象となる大規模事業だけに混乱が発生した。

 「今は存在しない銀行の口座に振り込んだ」「振込先の口座番号が間違っている」「金額が間違っている」「いまだに給付金を受け取っていない」―などのトラブルがどんどん表面化。筆者の同僚は、2年前に亡くなった義父の口座に、救済給付金が振り込まれたという。給付金受給者には、トランプ大統領名で救済給付金の説明と金額を含む通知が送られてくるのだが、同僚が受け取った義父当ての通知には、宛先である義父の名前の後に「死亡」と書かれていたといって、苦笑していた。

営業再開したショッピングモールで買い物する人々=18日、米ミズーリ州リッチモンド(UPI=共同)

 ▽失業給付、申請を試みると…

 一方、サービス業に失業者が集中することを見込んで、CARES法ではこれまでは失業保険の給付対象とならなかったフリーランスやギグ・ワーカーにも、パンデミック特例として失業補償給付を行うこととした。しかも連邦財源により7月までは収入にかかわらず、一律週に600ドル(約6・4万円)の追加給付という手厚い補償である。

 筆者の配偶者はフリーランスのミュージシャンである。レストランやバー、結婚式やイベントなどでの演奏で収入を得ている。3月22日から地元テキサス州ダラス郡でも、外出制限が実施され、ミュージシャンが演奏できる場所は一瞬にして消えた。

 不況で仕事が減っても、これまで失業給付とは無縁だった。疑心暗鬼になりながらも申請を試みた。州の労働局は、申請承認日が支給開始の基準日となるので、失業したらすぐに申請するようにと呼びかけていた。

 オンラインで申請できるはずなのだが、何度やっても途中でフリーズしてしまう。労働局には何回電話をしてもつながらない。数日後、「申請者が多すぎてテキサス州の失業保険システムがクラッシュした」「既存システムはフリーランスやギグ・ワーカーに対応していないので、システム調整中」という報道があった。

州政府の雇用開発局サイト。写真はカリフォルニア州政府のもの

 ▽フロリダ、給付受けた人は半分以下

 4月に入ってから、混雑を避けて夜中の3時に試したら、やっとオンライン申請を完了できた。認定が下りたのはその3週間後で、州の最低支給額である週あたり200ドル(2・1万円)が振り込まれただけだった。ここでも連邦政府と州政府のコンピューターシステムがうまく連動せず、連邦政府からの追加給付を支給できない状況が続いたのだった。

 5月上旬になると、ようやくパンデミックによる特例の600ドルの追加給付も振り込まれるようになった。

 5月中旬までの2カ月で、全米で失業給付を請求した人の数は、3650万人にのぼる。しかし圧倒的にキャパ不足の古ぼけた政府のシステムでの申請は容易ではない。例えば以前から不具合が多いと不評の失業保険申請システムを持つフロリダ州では、大部分の人が失業給付を手にすることができないでいる。

 同州では3月15日から5月3日までに100万人以上が失業保険を申請したが、実際にいくらかでも給付を受けた人は半分以下の47万8000人。システムの補修は間に合わず、何百回と電話をかけてもつながらないという苦情が相次ぎ、急きょ、書類による郵送申請も受け付けるようになった。

 フロリダ州以外にも、失業保険給付の申請を完了できていない人、受給資格者なのに却下された人などが多数いる。収支均衡が義務付けられている各州政府は、税収の大幅な落ち込みから州職員の解雇を余儀なくされており、さらなる失業者の増大は避けられない。今後、米国の失業率は25%に達するという予測もある。

休業に追い込まれた米コロラド州のレストラン=3月(ゲッティ=共同)

 ▽銀行は大口優先、弱者に届かぬ救済

 持続化を目的として小規模事業主向けに用意された貸付プログラムも、意図通りに進まなかった。失業抑制のため、小規模事業者が雇用維持目的で使う場合には、返済義務が免除される貸付プログラムとして、CARES法に3500憶ドル(約38兆円)の財源が用意された。しかし銀行は融資額に応じた手数料を稼げるため、このプログラムも大手銀行経由で財政的体力のある企業への大口融資が優先されて、2週間で貸付財源が底をついた。

 この結果、零細企業のほとんどが利用できない状況となり、連邦議会は小企業や零細企業に特化した追加の財源を手当てせざるを得なかった。それでも大手銀行と取り引きのない黒人やラテン系、アジア系など小規模のマイノリティー事業者は借り入れが難しい現実がある。

 現金給付、失業給付の拡大、小規模事業主向けの貸付金と様々な救済プログラムが用意された米国。だが、現金が手元に届くのが遅すぎると嘆く国民が大多数だ。さらに多数のホームレスや不法移民労働者、そしてこうした救済策があることを知らない、知っていても申請方法がわからない、あるいは申請できる環境にない弱者は、救済の手から滑り落ちていく。

 公衆衛生の専門家らは、秋から冬にかけて再び全国的な新型コロナ感染拡大の可能性があると警告している。すべての住民が安心して生活を維持し、経済を立て直すにはどうしたら良いのか。手探りの対策が続きそうだ。