トイレットペーパーなぜ消えた?新型コロナウイルス感染拡大での集合心理を分析①【社会心理学編】

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新型コロナウイルス感染症はいまだ終息のめどが立たず、多くの人がこれまでの日常とは違う生活を強いられ続けている。その中で、トイレットペーパーの買い占めや真偽不明の情報の拡散など異常な現象が見られている。感染症流行時の人々の行動について、今回のコロナ禍を例に社会心理学とSNSデータ分析の二つの側面から迫る。?

(取材・友清雄太)

情報不足解消が必要

コロナ禍の中、パニック行動やデマが発生する心理的要因は何だろうか。災害時との違いも含め、災害社会学、社会心理学を専門とする関谷直也准教授(情報学環)に話を聞いた。

2月末ごろから3月上旬にかけて、トイレットペーパーの買い占め騒動が起きました。このパニック行動の原因は

発端となったうわさは「トイレットペーパーは中国で大量に生産されているから、新型コロナウイルスの影響で輸入が途絶え品薄になる」といわれていますが、実際にそれをSNS等で知り買いだめに走ったという人はあまりいません。

人々はうわさがあるから買い占めるのではありません。根底にあるのは不安感です。普段とは異なる世間の雰囲気を感じ、テレビなどで行列の様子が報道され、店頭で品不足の様子を知ると「自分も買った方がいいかも」という心理が働くのです。そして、それが拡大再生産する。行動は個人レベルでは合理的にふるまっていても全体としては不合理に見えてしまう。「予言の自己成就」といわれる集合心理の問題といえるでしょう。

ダイヤモンド・プリンセス号に医療支援のために乗船した医療従事者を「ばい菌」扱いするなどの差別的行動が見られました

感染症は恐怖心から差別や偏見を生みやすいものです。感染症は実際にうつるので、ある意味合理的な行動と言えますが人権、倫理的には問題があります。一人ひとりが気を付けることと、疑心暗鬼にならないように韓国や台湾のように感染情報をビッグデータ等で伝える仕組みが必要ではないでしょうか。

外出自粛要請が出ているにもかかわらず「自分は大丈夫だろう」と不要不急の外出をする人が見られます。そのように考えてしまうのはなぜですか

非日常下でも「大したことはない、自分は感染せず日常がずっと続く」「自分に都合のいい言説だけを取り込みたい」と考える習性があるからです。前者を「正常性バイアス」、後者を「楽観主義的バイアス」と言います。それは相互に関連します。例えば「今は大変だが若者は重症化しづらいらしいし、数カ月もすれば自分は普段の生活を送っているだろう」という楽観主義が「自分は感染しない、大丈夫」との認識を生んでしまうのです。

コロナ禍でのデマの特徴は

地震など災害時には「窃盗団がうろついている」「断水している」等のうわさが流れます。ある程度パターンがありますので、そのパターンを知り耐性をつけておくことが大事です。

「5G回線がウイルスを伝播する」など明確に虚偽と分かるものも見られますが、真偽の判断が難しいものが多いです。例えば、1、2月には「若い人は重症化しない」といわれていましたが、後に誤りと判明しました。コロナ禍は人類が初めて経験する感染症で確かな情報が圧倒的に不足しています。ファクトチェックそのものが難しいので、一人ひとりが耐性をつけるしかないのです。

デマが発生する原因は

人はある状況において納得できる情報を欲します。ニュース等で得られる情報だけでは満足できないと感じたとき、不足をコミュニケーションで埋め、自分達で世界を理解するための情報を作ってしまうのです。

社会の不安感を少しでも減らすためには

政府や公的機関がもっと丁寧に情報発信すべきです。「なぜ検査数が日本だけ少ないのか」「休業補償は受け取れるのか」「地元の感染者の行動経路の詳細は」など国民が求める情報を上手に発信できていません。そのために様々な憶測を呼んでしまうのです。

コロナ禍においてテレビや新聞などマスメディアに求められる役割は

感染拡大を防ぐために政府が強硬な手段に出ることもあり得るでしょう。報道機関は第四の権力として政府の監視が求められます。

不安の拡散を防ぐため扇動的な報道を抑制することも必要です。例えば、自粛をしない人を糾弾する報道ばかりではいけません。バランスよく真に必要な情報を丁寧に伝達すべきです。

SNS分析編に続く

SONY DSC 関谷 直也(せきや・なおや)准教授(情報学環総合防災情報研究センター) 04年人文社会系研究科博士課程満退。修士(社会情報学)。東京大学卓越研究員。東洋大学准教授などを経て18年より現職。