球団広報となった元巨人左腕が繋ぐファンとの絆 ユニーク企画はどのように生まれた?

元投手で現場広報として奮闘する巨人・阿南徹さん【写真提供:読売巨人軍】

オリックス、巨人でプレーした阿南徹さん、アカデミーコーチから現場広報に

YouTubeにツイッター、インスタグラムなどのSNSで各球団、様々な施策を行っている。巨人では広報部、ブランドコミニュケーション部、ファン事業部等がアイディアをまとめ、発信している。現場の広報部員として活動する元オリックス、巨人でもプレーした阿南徹さんは、“チーフ”格の元投手の矢貫俊之さん(日本ハム、巨人)らとともに、自主練習中の選手たちとファンとの懸け橋になっている。阿南さんの引退後の歩みと現在に迫った。

阿南さんは2009年に日本通運からオリックスに入団し、2012年オフに東野峻氏、山本和作氏との交換トレードで香月良太氏とともに巨人に移籍。2013年にプロ初勝利を挙げたが、左肘のけがなどもあり、2016年限りで現役引退。その後、球団から職員としての打診を受け、小学生までを対象に子どもたちに野球の楽しさを伝える「ジャイアンツアカデミー」のコーチとして2年活動していた。

「アカデミーの経験はとても勉強になりました。どうやったら子供たちに理解してもらえるか、野球を感覚ではなく、言葉で相手に伝えるということは、自分にとって、スキルアップできたと思います。野球以外の部分の礼儀や挨拶などは厳しく言いましたが、子供たちが楽しそうに野球をやってくれることが一番。それが野球の原点なんだと僕は思います」

平日の業務では幼稚園訪問、都内の小学校へ「ベースボール型授業」の講師、土日には地方で野球教室の開催、ジュニアチームのコーチなど、野球人口の底辺拡大の役割を担ってきた。さらにスキルアップを目指そうとしていた頃、配置転換の連絡が。現場とメディアなどの間に入る、広報部の仕事だった。

「何も知らない状態で現場に出て、キャンプの時は(同じく初めての広報部所属となった)矢貫さんと、毎日といっていいほど、意見交換をして、自室でも業務後に話をしたりしていました。自分たちのやり方で、新しいものを作り上げていこうとか、明日はこうしていこうとか話をしていました」

勉強の日々が続いた。シーズンが始まれば試合中の選手の談話を聞きに行き、勝った試合ではヒーローインタビューの選手を決めた。シーズン中もオフもテレビやラジオ出演、ファッション誌、時には女性誌の取材も選手にお願いし、取材を受けた。

「選手にしてみれば野球が一番というのはもちろんですが、選手の幅を広げてあげたいですし、色々な方に知ってほしいと思っています。かっこいい選手、スタイルのいい選手、おしゃれな選手、届けていきたいな、と」

自主練習期間中はペンとメモ帳を持って“取材”、インスタライブは人気コンテンツに

この自主練習期間中は報道陣も自粛となっているため、「記者さんみたいなことしています」と選手のコメントなどをとって、メディアに届けている。選手の一番近くに立って、ファンに「何か届けることはできないか」と模索している。

「毎日、同じことは聞けないので、最近は家の過ごし方などを聞いています。日頃の報道の皆さんの大変さを感じています」

巨人は自主練習期間でたくさんのコンテンツを発信し、ファンを楽しませている。

「球団全体でファンの皆様を盛り上げようと頑張っています。特にSNSですね。今年できたブランドコミニケーション部の若いスタッフたちが力を入れているんですが、今はファンの皆さんが野球を見に来られないので、選手やコーチ同士のインスタライブをやりました。選手プレゼント企画とかも考えています」

他にも球団カメラマンの存在も大きい。各媒体のカメラマンも球場に来られないため、要望を受けて、球団から写真を提供している。柔らかい表情から真剣な表情まで、あらゆる要望に応えてくれていて「SNSや動画が目立つ中、写真1枚の情熱や思い、すごいと思います」と頭の下がる思いだ。

うれしいのは、職員だけでなく、選手から提案を受けることが増えてきていることだ。

エースの菅野は、中学生以下の野球少年へ、巨人(OBを含む)選手の「ものまねチャレンジ」を企画。左腕の田口は球団公式インスタグラムで選手のものまねクイズを定期的に公開。ベテランの亀井はファンが見たいツボを押さえており、自らがカメラを持って、主将の坂本へ近づき、亀井しか撮れないような外野守備映像を収めたりしてくれている。

「選手の方から『こういうのはどうですか?』とか言ってきてくれます。選手たちもファンが試合を見られない辛さをわかっています。そういう思いを伝えてあげられるのが僕らの役目と思っています」

新しいチャレンジがそこにはある。巨人・今村球団社長が「飛んでから考えろ! 潜ってから息を吸え!」と昨年の就任会見でこのように述べたが、阿南さんはその“モットー”を「考える前に行動、失敗を恐れずにどんどん挑戦していくこと」ととらえ、広報として心掛けているという。

「選手とメディア、ファン、それぞれがお互いの気持ちを理解して、チームの盛り上げ、ファンサービスをしていきたいと考えています。プレーに支障が出ないよう選手の気持ちを最優先したいですが、なんとかメディアの方のリクエストにも応え、ファンに届けられるようにしたいというのが広報として一番、心がけていることです」

迎えた国難の中、巨人は原監督の「ファンと共に球春到来を迎えたい」という力強いメッセージのもと、共にこの状況を乗り越えようと「WITH FANS」というプロジェクトを発足。ロゴマークには、満員で埋め尽くされた球場のスタンドを表現し、当たり前だった光景が元に戻る日まで、ファンとつながり続ける取り組みを行っていく。その選手とファンの間に入る重要な役割として、阿南さんたちは前を向いて、歩を進めていく。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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