VW最小SUV「T-CROSS」は遊び心満載!アウトドア志向なのにパワーが物足りないワケ

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フォルクスワーゲン「T-CROSS」

「TさいSUV」--。お笑いコンビ・チョコレートプラネット風のダジャレコピーを打ち出したフォルクスワーゲン(VW)の新型モデル「T-CROSS」は、VWが自ら宣言するように、コンパクトなボディに可能性を詰め込んだアウトドア志向の強いモデルである。

ボディサイズは視覚的なインパクトよりも小さい。全長4115mm、全幅1760桃、高さは1580mm。ポロのプラットフォームをベースに、高さを100mm伸ばしたトールボーイとして、全長はそれでも60mmも長い。車高も40mmリフトアップしている。こうして“Tさい”ボディが完成したのだ。

搭載されるエンジンは1リッター(正確には999cc)の直列3気筒ターボ。最大出力は116psに留まり、最大トルクも200Nmである。7速DSGと組み合わされる。ツインクラッチ式は、同種のコンパクトモデルとしては贅沢な装備だといえるだろう。

はたして、そのルックスから想像できるように、アウトドア感覚が強い。試乗車の「1st PLUS」は、室内外の装飾に遊び心が加えられた仕様だ。アルミホイールはオレンジスポークに塗られ、派手なシートが与えられている。インパネの加飾も華やかだ。若い層をターゲットにしていることは明らかである。荷物を満載してアウトドアに出かけるシーンを連想させるのだ。

ただし、駆動方式は平凡なFFだ。4WDの設定はない。ドイツ本国に設定されている1.5リッターエンジンも、1.6リッターディーゼルユニットの選択肢もない。116psの決め打ちなのである。これで河原や緑の深いキャンプサイトなどに踏み入れられそうだが、クロカン性能は強調されておらず、あくまで街中をクルーズするためのオンロード仕様なのである。

加速感はちょっとか細い。小排気量ターボの欠点である極低回転域のレスポンスが頼りない。信号待ちからの発進で、最初の一歩がもたもたする。経済性に効果のあるアイドリングストップが作動すれば、なおさらだ。高速域で強い加速感を得ようとしても無理がある。車重は約1.3トン。それほど重いわけではないが、パワフルな走りは期待できないのである。

ただし、街中をゆるゆるとクルーズするような場面でのストレスはない。発進してしまえば、そこからはターボのパワーゾーンである。比較的混雑した幹線道路のたび重なる加減速でも、もたつくことはなかった。ターボの過給特性は明らかに低中回転域にアジャストされているようで、市街地走行が狙いなのだろうと想像した。

そう思って見ると、T-CROSSの立ち位置が鮮明になる。ボディスタイルはクロカン風である。華やかな加飾からもアクティブな印象を受ける。だがFF駆動である。ダート走行はやや心許ない。山坂道をぐいぐいと駆け上っているほどのパワーもない。だが、市街地では軽快に走る。まさに、取り回しのいいコンパクト性を武器に都会をちょこちょこと駆け回るのがふさわしいアーバンSUVなのである。

そして同時に、VWワールドへの誘いという使命を担う。かつて我々は、ポロやゴルフの門を叩くことからVWの世界にエントリーした。だが、今はSUV全盛である。この“TさいSUV”を導入として、ユーザーの意識を引き込むという役割があるような気がした。デザインは明らかに若々しく、シニアには照れ臭い域にまで追い込んでいる。ターゲットはずばり、運転免許を取得したばかりのファーストユーザーだ。Tさいけれど、重要な使命を担っているのだ。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。