カーショー、前田健太の素顔紹介…ド軍トレーナーが少年少女に与えた夢の時間

野球少年少女にオンラインで講習会を行ったドジャース・中島陽介トレーナー【写真:編集部】

カーショーの驚きのルーティン、マエケンは「もしかしたら野球の天才かも…」秘話も交えてオンラインで約1時間

ドジャースのアスレチックトレーナーを務める中島陽介氏がこのほど、オンライン会議システム「Zoom」を使用して、野球少年少女に向けた講習会を開催した。新型コロナウイルスの影響で自粛期間が続く子供たちのために、「何かできないだろうか」と知人のスポーツマーケティング会社(主催のPOD Corporation)に依頼し、企画。日本人選手をはじめとしたメジャーリーガーのこと、野球上達に必要なトレーニングの勧めなど、アドバイスを送った。カーショー、マエケン……次々と飛び出す現役選手の名前と彼らの秘話に、子供たちはのめり込んでいった。

大好きな野球ができない。そんな野球少年少女たちに少しでも有意義な時間を提供したいと、海の向こうから“やってきた”。ドジャースの本拠地があるロサンゼルス郊外の自宅から、中島さんはパソコンを通じ、子供たちに語りかけた。

参加したのは品川区軟式チームの相生イーグルスと目黒区軟式チームの東が丘ボーイズの選手とその保護者たち。約1時間の講演会のテーマは多岐に渡った。中島さんが見てきた日本とアメリカの野球文化の違い、アメリカから見た日本の少年野球の魅力と課題、ドジャースでの仕事内容、クラブハウス内の選手の素顔、そしてトレーナーの観点からの野球上達方法など、魅力的な要素が詰まっていた。

野球文化の違いについては、アメリカの少年野球は練習ではなく、試合で上手になるという観点を紹介。また、やりたいポジションがあったら、やらせてあげるという考えであるということ。「たとえ、捕球が上手でなくても、キャッチャーをやりたかったら、やらせてあげる」と控えの概念がほとんどないことも挙げた。1~7イニングの間、毎回、ポジションが変わる試合も多いという。

中島さんも日本でベンチを温める時期もあった野球選手だったため「僕もアメリカで野球をやっていれば、メジャーリーガーになれたかもしれませんね」と冗談っぽく笑ったが、試合に出て楽しさを味わってもらうことが上達の近道だというメッセージは、指導者や保護者たちに届いただろう。

カーショーは「全員から三振を奪うことを考えている」

小学4年生の選手からは、試合前の気持ちの作り方について質問された。「いい投手は自分が勝つことだけを考えているんだよ」とドジャースのエース左腕、カーショーの名前を引用。「彼はすごいルーティンを持っています。特に試合が始まる前はシミュレーションしています。試合に投げる日は起きる時間、食べる物、車のエンジンを動かす時間、球場入りする時間、トレーナ―室に入る時間、トイレ……すべての動きと時間が決まっています」と紹介すると、子供たちは驚いた様子だった。

中島さんがある日、試合の入り方をカーショーに聞いたところ、「全員から三振を奪うことを考えている」と返答されたという。「すごい投手、打者、それから監督、みんな負けることは考えていないんだ」と子供たちに強いハートを持つ大切さを伝えた。

他にも「どうやったら前田健太投手のようになれますか?」とドジャース在籍時に同僚だった右腕について問われると「彼はもしかしたら野球の天才かもしれない」と語りだし、常に野球を楽しんでいること、探求心を持っていることなどを紹介。疲労回復を早くする方法については「いつも僕たちは選手に、睡眠時間、眠る1時間前に携帯電話などをいじっていないか、朝ごはんは食べたかなどを聞いています。みんなも眠る前にゲームとかしていませんか?」と投げかけ、きちんとした睡眠、食事をとる重要性などを伝えた。

少年野球では指導者も正しい見識を持つことが重要だ。今回、参加チームは指導者からの質問もあり、目標設定を持たせることや、投球数の制限などについての意見交換が行われたオンライン講演会とはいえ、子供たちからもたくさんの質問が飛び交い、有意義な時間となった。小学生対象の講演は初めてだったという中島さんは「アメリカで育てている自分の子供と考えることは似ていると思いました。実際にお子様方の顔を見ながら質問を受けたりすると表情が見られるので、とてもテンションが上がりましたし、話し易かったです」と振り返った。

中島さんは現在、ドジャースタジアムで選手たちがトレーニングを再開できるように準備を進めている。トレーナーもローテーション制で、週に4回、スタジアムに行っているという。今回、参加した子供たちがグラウンドで白球を追いかける日が早く来ることを願うのと同時に、いつか、どんな形であってでもいい――メジャーリーグの舞台で再会できる日も楽しみに待っている。自粛中だったからこそ、得られることができた貴重な体験。子供たちも忘れない一日になってほしい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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