「作家はちょうど木のようなものです」 野呂邦暢のラジオ脚本 諫早図書館で公開

「作家はちょうど木のようなものです」。野呂邦暢が芥川賞受賞後、出演したラジオ番組の脚本(諫早図書館所蔵)

 「作家は木のようなもの。住んでいる土地の風土に合わなければ枯れてしまう」。長崎県諫早市ゆかりの芥川賞作家、野呂邦暢(1937~80年)が同市を拠点にし続けた思いを物語る言葉。同市立諫早図書館(東小路町)は、この言葉を自ら語ったラジオ番組とラジオ小説の脚本を所蔵し、31日まで期間限定で公開している。5月7日に没後40年を迎えた野呂の横顔と文学の一端に触れられる貴重な資料だ。
 野呂は長崎市生まれ。45年、諫早市へ疎開した。県立諫早高卒業後、職を転々としながら73年、自衛隊体験を基にした小説「草のつるぎ」で同賞を受賞。80年、42歳で急逝した。近年、随筆選や小説集成が刊行され、新たなファンを獲得し続ける異色の作家でもある。
 公開されたのは、NHK福岡放送局制作のラジオ番組「小説と郷土」(74年)とラジオ小説「青葉書房の主人」(72年)のガリ版刷りの脚本。母親の故納所アキノさんが同市に寄贈した資料に含まれていた。
 ラジオ番組では諫早の魅力を語る様子がうかがえる。ラジオ小説は放送作家時代の作品で、小さな古本店に思いを巡らせる主人公の心情を巧みに描いた内容。
 同館エントランスでは6月17日まで、愛用したレコードプレーヤーや蔵書を披露。ふるさとの文人コーナーでも8月19日まで関係資料を展示する。月曜休館。野呂の功績をしのぶ第40回菖蒲忌(市芸術文化連盟主催)は新型コロナウイルス感染拡大で中止された。

ラジオ小説「青葉書房の主人」と、野呂が出演したラジオ番組「小説と郷土」の脚本(諫早図書館所蔵)

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