「今こそ球界は1つに」「独立Lが受け皿に」BC福島・岩村氏が球児救済に寄せる想い

BCリーグ・福島レッドホープス代表取締役社長兼監督を務める岩村明憲氏【写真:佐藤直子】

愛媛・宇和島東高で目指した甲子園、今年の開催中止決定に「何ができるのか考えたい」

世界的大流行が続く新型コロナウイルスの影響により、8月10日から予定されていた第102回全国高校野球選手権大会は開催中止となった。春夏連続の中止は、長い“甲子園”の歴史を振り返っても初めての出来事。命と健康を守るため、致し方ない決断だったとは言え、入学以来、ここまで2年2か月積み重ねた練習の成果を発表する場を失った3年生の喪失感は計り知れない。

「残念、という言葉だけでは、到底済まされるものではないと思うんですよね」

そう絞り出すように言葉を発したのは、ルートインBCリーグ福島レッドホープスで球団取締役社長兼監督を務める岩村明憲氏だ。愛媛・宇和島東高で甲子園を目指した岩村氏が「Full-Count」の電話取材に応じ、子どもたちのやりきれない想いを救う大人たちの努力、そして独立リーグが果たしうる“受け皿”としての役割について語った。

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およそ25年前。甲子園出場を目標の1つに掲げ、岩村氏は仲間たちと汗と泥にまみれながら白球を追い続けた。高校球児にとって甲子園が特別な場所であることは、十分過ぎるほど知っている。それだけに「簡単な言葉はかけられない」と口を開いた。

「難しいですよね。高校生は『今、今、今』と野球に向き合い、一心不乱に今を生きてきたので『気持ちを切り替えて、明日からまた頑張れよ』みたいなことは絶対に言えないですよね。プロ野球選手もメジャーリーガーも、みんな元は高校球児。みんな想いは一緒だと思います。

ただ、3年生は今まで2年2か月ほどやってきた中で、監督さんをはじめ、部長、コーチ、チームメート、いろいろな人と接する中で人間社会を教えてもらっただろうし、先輩後輩という関係もあって、いろいろなことを吸収できたと思います。辛い練習を乗り越えられた、体力面がアップした、体が大きくなった、我慢することを覚えた。野球を通じて得たものはすごくあると思います。そこで得た自信はなくさないでほしいですね。これは絶対、野球も含めて、今後の人生に必ず役立つこと。僕も実際に役立ってきましたから」

「勝つ喜びはもちろん、負けた悔しさも味わわせてあげたい」

自身も現在、独立リーグの今季開催に向けて、毎週行われる代表者会議に出席。感染リスクを配慮し、選手や関係者の健康を守らなければならない「大人の事情は百も承知」だ。また、インターハイが中止となったり、大学生や中学生、小学生を対象とした様々な大会が開催中止となるなど、「発表の場を失っているのは野球だけじゃないことは大前提にある」とも理解している。

「でも、もちろん自分は野球をやってきた身。野球でお世話になって今の立場がある。だからこそ、甲子園という目標を失ってしまった子たちに対して、何ができるのかを考えたいですね。夏の甲子園に出られるのは、47都道府県で49校しかない。スポーツは勝負の世界。勝者と敗者が生まれるけれど、勝って甲子園に出場するチームは、負けたチームに対する思いやりや、彼らの分もという想いを学ぶ。僕自身は3年生の時、愛媛県大会の準決勝で松山商業に敗れた、あの悔しさがあったから、ここまで来られたのが事実です。なので、勝つ喜びはもちろん、負けた悔しさも味わわせてあげたいというのがありますよね」

同じ甲子園に行けないということでも、負けて行けないことと、勝負の土俵にすら上がれないのでは、全く意味は異なる。「チャンスが与えられての『行ける行けない』ではなく、チャンスすら与えられない状況なので、本当に迂闊な言葉はかけられないし、簡単な言葉もかけられない。かけられる言葉って、よくよく考えてみると……難しいですね」と言葉を詰まらせる。

「福島であれば、聖光学院の子たちは14年連続出場がかかる中で、それができなくなってしまった。春の選抜が決まっていた磐城高校の子たちは、中止になった無念さを『夏は必ず……』と切り替えてやっていたと思うんですよ。我が母校の宇和島東も、去年の夏は甲子園に出たけれど春は出られなかったので『今年の夏こそは』という気持ちだったと思います。

僕の身近にもこういう高校はたくさんあるわけで、全国の球児が夏に大きな思いをかけていたと思うんですよ。それがなくなってしまうと、心のケアも含めて、どんな代替案が必要なのか、可能なのか、もっともっと大人が考える必要があるんじゃないかと」

球児に次の可能性を示すためにも「今こそ野球界は1つになるべきだと思うんですよね」

夏の甲子園に向けて、例年沖縄では6月から県予選がスタートする。「早めの決断は必要だったと思う」と5月20日の中止決定に理解を示すが、岩村氏は「まだまだ議論はしてほしい」と訴える。

「まだ5月じゃないですか。いろいろな代替案は考えられると思います。春の選抜に出場予定だった球児は、甲子園の土を踏ませてあげるだけでもいい。あとは、マスターズ甲子園もありますから、近い将来に今年の3年生を対象とした大会を開くとか。ただ、甲子園に代わるものはない。コロナを巡る社会の状況は刻一刻と変わっていますから、夏に限らず、まだ少しでも可能性があるのであれば探ってほしいですね」

地方大会の開催も見込まれない今、プロ入りはもちろん、大学や社会人などを目指していた球児にとって、進路もまた大きな影響を受けることになる。将来的にプロ入りを目指す球児にとって、独立リーグもまた、1つの進路となり得る。

「独立リーグは1年プレーすればNPB入りできる。だからこそ、進路に困った子たちの受け皿になりたいですよね。夢は諦めずに頑張ってほしい。そういう意味でも、今年なんとかリーグ戦ができるように、いろいろな議論を重ねています。僕は、今こそ野球界は1つになるべきだと思うんですよね。なんとかしたい気持ちはみんな持っていると思います。ただ、甲子園中止の決断をしただけではなく、次の可能性を探る姿勢を見せてあげたい。決して突き放しただけじゃないんだよって。

大人たちは子どもたちに『夢や希望を持つように』と言っていると思います。仕方ない事情だとは言え、甲子園中止を決め、夢や希望を摘み取ってしまうわけですから、そこは大人が『こういうところに希望はあるよ』と前向きになれる可能性を示すことが大事だと思います。その可能性を、野球界が1つになって示してあげたいですね」

球児のために野球界は何ができるか。独立リーグは何ができるか。野球を愛する“先輩”の一人として、岩村氏は球児救済の道を探るつもりだ。

○…Full-Countでは夏の地方大会、甲子園の中止を受け、高校野球(硬式・軟式)をやっている3年生の将来の力に少しでもなれればと、アピールに協力したいと考えています。Twitter、インスタグラムで「#このままじゃ終われない」「#フルカウント」とハッシュタグを付けて、自信のあるプレー動画をFull-Count公式ツイッター(@Fullcountc2)へ返信、または投稿してください。拡散に協力させていただきます。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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