『ブックスタート』 絵本を介して子育て応援 孤立防止へ工夫凝らす

4カ月健診の会場で絵本を手に取る親子=長崎市内

 動物のイラストが描かれた絵本をめくり、母親が目尻を下げた。赤ちゃんはそんな母親の表情と絵本を見詰め、ご機嫌な様子。乳幼児健診などの機会に自治体が赤ちゃんに絵本を贈り、本に親しんでもらう「ブックスタート」の一こまだ。1992年に英国で始まり、日本に伝わって約20年。自治体ごとにさまざまな工夫を凝らし、本を介して子育てを応援している。取り組みの現場を訪ねた。

 今月14日、長崎市の4カ月健診の会場。市立図書館司書の平幸恵さん(51)が、同市のブックスタートの取り組みを笑顔で親子に紹介していた。同市は健診会場で絵本の引換券を渡し、市立図書館やふれあいセンターなど市内56カ所を交換場所に設定。赤ちゃん用の本の貸出券も用意するなどし、継続して本に親しんでもらう環境作りを心掛けている。
 選書のアドバイスを聞いて絵本を選んだ同市西町の団体職員、末永萌久美さん(35)は「本の専門家に話を聞けてよかった。こうした制度があると知り、うれしい気持ちになった。これから一緒に楽しみたい」と笑みをこぼした。
 普及促進に取り組むNPO法人のブックスタート(東京)によると、絵本を贈るブックスタートの目的は早期教育ではなく、絵本を開く楽しさを親子で共有してもらうことだという。国立児童書専門館の国際子ども図書館(東京)の開館を記念し「こども読書年」と位置付けられた2000年に国内で取り組みが紹介され、全国に広がった。今年2月末現在、全国で1千以上の自治体が導入し、長崎県内でも18市町が採用している。
 一口に絵本を贈るといっても、取り組みは自治体によってさまざまだ。兵庫県川西市は家庭訪問で絵本を届けており、育児不安の軽減や虐待予防の一助にもなっているという。長崎県では松浦市が市販の絵本ではなく、市が独自に作製した絵本「だっこ だっこ」をプレゼント。子どもの名前を書き込め、読み聞かせをしながら親子でスキンシップを楽しめる内容になっている。
 同法人の調査によると、ブックスタートを経験した保護者からは「子どもとどう関わってよいか分からなかった父親も、絵本を介して自然に遊んでくれるようになった」「赤ちゃんの個性を発見できた」「子どものためと思っていたが、自分のためになった」などの声が寄せられ、好評。取り組みに賛同した保護者が、絵本を贈る健診会場でボランティアで読み聞かせをするなど、市民が活動を支援するケースもある。
 同法人の三上絢子さん(42)はブックスタートの効果について「子育ての孤立を防ぎ、人と人がつながるきっかけになる」と強調。一方で、新型コロナウイルスの影響を受け、各地で読み聞かせの中止などが相次いでいる現状を危惧している。「どんな状況下でも赤ちゃんは成長する。そんな中で赤ちゃんや保護者のために何ができるか、行政やボランティアなど地域の熱意とアイデアが必要。人の熱意がないと続かない事業」と語る。

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