「高校時代に頑張った」培った胸張れる“実績”  涙をふいて 部活で得た財産<1>

心身の成長を実感している諫早農高相撲部の後田。これからの人生でつらいことがあっても「負ける気はしない」=諫早市、諫早農高相撲場

 新型コロナウイルスの影響で、史上初めて中止となった第72回長崎県高校総合体育大会(県高総体)。3年生にとっては悲痛な決定だったが、この高校最後の舞台を目指した日々からたくさんの財産を得た。心身の成長、大切な仲間、保護者の愛情-。涙をふいて次への一歩を踏みだそうとしている3年生にスポットを当てた。

 ふと、自らの体と向き合ってみると、3年間で見違えるほどたくましくなっていた。小学生のころは「背の順」で一番前が定位置。相撲を始めた高校入学時もやせていて、最初の試合は全敗した。誰よりも弱かった自分が、ここまで変われるなんて-。
 5月半ばの放課後、諫早農高。すっかり色あせたまわしを着けながら、後田智己はそんなことを考えていた。いつも熱気であふれている稽古場は最近、少し寂しげな空気が流れている。分散登校で一緒に練習できる部員は半分だけ。インターハイや県高総体が中止になった影響も大きいな、と肌で感じる。
 絶対に相撲をやろうと思って入学したわけじゃない。三つ上の兄がOBだからと見学に行ってみると、成り行きで入部が決まっていた。
 自慢の兄だった。100キロ超の恵まれた体格を生かして、県大会で何度も優勝。性格は明るく陽気で、自分とは何から何まで正反対だった。誰かに話し掛けられると、二言目には兄の名前が出てきた。「またか…」。初めは同じ道を選んだことを後悔もした。
 それでも辞めなかったのは、自分も強くなりたかったからだ。
 毎日、一回り大きな相手に全力でぶつかった。けがを隠して稽古を続けた日もある。人が腕立て伏せを100回やれば、自分は200回やった。部内の誰よりも練習した。体を大きくしたくて、休み時間に母が作ってくれたおにぎりを食べた。
 当初60キロだった体重は80キロ近くに増え、次第に試合でも勝てるようになってきた。そして昨年11月、県新人大会(80キロ未満級)で初優勝。続く九州新人大会も制した際は、先生や仲間たちが自分のことのように喜んでくれた。もう、兄と比較するような人はいなくなっていた。
 目標にしていた大会が次々になくなり、まだ、ショックは拭えていない。でも、相撲で得たものは単に賞状やメダルじゃないとも思う。強くなったおかげで、何よりも自らに自信が持てるようになった。あんなに内気だった自分が、今では進んで後輩たちの指導をしている。1年生のころは想像もできなかった。
 これからの長い人生、何が起こるか分からない。今年のコロナ禍のように、また、予想もできないようなつらい出来事もあるだろう。でも、負ける気はしない。「高校時代に頑張った」と堂々と胸を張れる“実績”があるから。


© 株式会社長崎新聞社