秋葉原帰りだったのでしょうか(写真はイメージです)。
個性的なお客様方を思い出しては、時々「フフッ!」って顔が緩んでしまいます。そんな思いでのお一人。
ある日ネット予約(ネットの写真などを参考にお店に電話で指名予約すること)で、やって来たのは40代前半か、歳の割にはのお洒落感微妙な服装。なんだか日頃来る方と違う掴み所のないご様子で、「初めまして◯◯です。今日は宜しく……」と三指着いて、吉原流正座のご挨拶をしてるのに、彼はこちらの様子を気にするでもなく、ベッドに座ってそわそわリュックを下ろしたり、自分の段取りを淡々とこなしたい様子。
そしてそれが終わったかと思うと、急に矢継ぎ早に話始めました。
「僕は◇◇グループファンで、Aちゃんが推しメンなんだ」「おしめん?」「そう、推してるメンバーだよ」
どうやら俗に言うドルヲタ、アイドルヲタクさんでした。
「箱推しみたいな中途半端じゃなくて、それにDDみたいなのは許せないからね」
どんどん特殊用語が出てきますから、申し訳ないけれどいちいち「なにそれは?」と解説を求めつつ、話は延々と……。
「箱推しは、グループの組ごとにいる奴らだけど、その組全体を押しちゃうってか、DDは誰でも大好きってふざけてるよね」
彼は表情一つ使えず真面目に話を続けます。そしておもむろにキャップを取って見せ、
「ほら、Aちゃんの名前が入ってるだろ、これもこれもみんなAちゃん仕様なんだ」キャップにジャンパー、Tシャツ、バンダナ全部がそうでした。
「すごいですね、大ファンなのね!」
「もうAちゃんはとにかくすごいから本物なんだ」
何をして本物なのかはわかりませんが、リュックに刺さっていた筒状だったポスターを数枚広げ、応援用のライトバー(彼はサイリウムと呼んでました)の説明、次は4冊もアルバムを見せ、Aちゃんの写真(用語ではトレプレとか?)について丁寧に説明していきます。
もう全くHをしに来た様子ではありません。私もどうしていいやら、とにかく話に付き合いました。
「この写真は奇跡の笑顔だよね、すごい、すごすぎるよ! もうオーラがさぁーまるで違うだろ」
服も脱がずにAちゃん三昧のおしゃべり、最後にリュックから出てきたのは、金属のぎっしり詰まった謎の球体!
「今までのAちゃんが出したキーホルダー全部買ったんだ、一つ残らず持ってるんだ!」
球体の真ん中にある輪っかにキーホルダーを全て付け続けとうとう球形になってしまって、もはや肝心の家の鍵が埋もれているようですし
「鍵使いにくくない?」と聞けば「勿論、鍵はいつもAちゃんに守られてるんだよ」
そこまで話すと、突然自分から服を脱ぎ、
『唐突なH』
が始まり秒殺で終わり! 余りにもあっけないお仕事だし、後はずっと一方的なAちゃん話……。
あっけにとられつつも、はっと思い浮かんで質問してみました。
「ねえ、一人エッチはAちゃんを思い出してするの?」
すると突然全裸で立ち上がり、大声で一言、
「Aちゃんは神だ! 神とはできない!!!」
全裸仁王立ち、真顔の彼に圧倒された次の瞬間、私は大笑いしそうになるのを押さえるのに必死でした。「神とはできないのよねぇー」今でもクスクス、あの姿を思い出して笑っています。(文◎久世素子 吉原某店勤務中)