新型コロナが大学経営に与える影響 閉校の恐れある英国と対照的なフランスの違い【世界から】

英国を代表する名門・ケンブリッジ大

 欧州各国は新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きつつあるとして、相次いで外出などに関する制限措置を緩和している。これを受けて、休校されていた学校も再開しつつある。そんな中、国によっては大学が厳しい財政状況に陥る恐れがあることが明らかになった。関係者によると、経営悪化を避ける鍵を握るのは留学生だという。同じように新型コロナウイルスの影響を受けながらも全く異なる状況にある英国とフランスの比較を通して、大学が今後どうなっていくのかを考えてみたい。(パリ在住ジャーナリスト、共同通信特約=今井佐緒里)

 ▽損失は9千億円

 英国内の全137大学が加盟する「英国大学協会」が先日明らかにした試算が話題を呼んでいる。英国内の大学が本年度(2019年9月~20年8月)に被る損失が合計で7億9000万ポンド(1035億円)になるというのだ。これには新型コロナウイルスの流行によってキャンセルされた宿泊施設や食事、会議関連の収入も含まれている。

 新学期が例年通り、9月から行えるのかも不透明な状況にある。同協会で国際ディレクターを務めるヴィヴィエンヌ・スターンさんよると大学は次のような三つのプランを立てた。

 プランA=9月から新学期を始めて、大学の教室で対面授業を実施

  プランB=9月から新学期を始めるものの、授業はオンライン。そして、環境が整えば通常の形態に戻す

  プランC=新学期の開始を見送る

  プランBだと、オンラインなので従来と同じ授業料を請求するのは難しいと考えられている。プランCの場合、授業料収入そのものが期待できない。経営のことを考えれば、何としても避けたいところだ。

  無事、授業を始められたとしても問題解決とはならない。留学生が英国にやってきてくれるかがはっきりしないからだ。

 英国では、出身国によって授業料が違っている。英国と欧州連合(EU)の学生は年間約1万ポンド(131万円)なのに対し、その以外の国からの学生は最低でも2万ポンド(262万円)。中には3万ポンド(393万円)以上の大学もあるという。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の統計では英国の大学に籍を置く留学生は約48万人。これは米国に次ぐ世界2位の数だ。結果、留学生が支払う授業料は大学収入の3分の1を占めるまでになっている。大学経営上とても大きいことがよく分かる。

 新型コロナウイルスの感染拡大による出入国の制限などは多くの国で今も続いている。これが長引いて留学生が大学に通えなくなると、その分が減収となる。同協会は20年度の留学生がゼロになった場合、69億ポンド(9040億円)の損失になると見積もっている。単純に平均すると1大学でおよそ66億円もの減収となる。

新型コロナウイルスの感染拡大で人けがなくなった英ロンドンの通り=3月27日(UPI=共同)

 ▽消せない不安

 留学生の出身国で最も多いのは中国で、少なくとも12万人がいるとされる。中国人留学生は、新型コロナウイルスの感染防止を目的に英国を出てしまっている。大学の財政悪化を防ぐには中国人留学生に戻ってもらうことが重要となる。

 だが、現状は厳しいという見方が多い。感染拡大を機に中国人に対する反感や差別が高まっているためだ。

 「中国人に対するあからさまな差別は実際にはほとんどない。だが、ソーシャルメディアによって差別が横行しているという悪い印象が増幅して広まっているので英国に戻ることをちゅうちょしてしまっている」。マンチェスター大学社会科学部の研究員イシュアン・ファンさんはそう分析する。さらに、感染状況の判断を誤り対策が遅れた英国を信頼できないことも不安要素になっているという。

 ▽社会を支える重要な基盤

 対照的なのが約34万人の留学生がいるフランス。財政的な問題はまったく聞かれない。背景にあるのは、大学経営に関する考え方の違いだ。

  フランスは、昨年度(17年9月~18年8月まで)まですべての学生は国籍を問わず同じ学費だった。しかも、学部生で年間180ユーロ(約2万1千円)と安い。本年度からは反対を押し切って2770ユーロ(約32万円)と大幅に値上げされたが、他国と比べるとまだ安い。

 加えて、フランスでは留学生にだけ高い学費を課すことは「人種差別である」と理解されてきた。フランスには学費収入で大学経営をしようという発想がないのだ。筆者はこのことを知ったとき、「自由・平等・博愛」を標語に定めるフランスらしい考え方だと感心したことを今も覚えている。

 英政府は感染防止のため、新年度からの学生数を制限する方針を打ち出した。そして、影響を受ける大学に合計27億ポンド(約3540億円)を支援する救済案を提案している。しかし、スターンさんは「救済案は不十分。今後、閉校に追い込まれる大学が出てきてもおかしくない」と指摘する。 

 大学の研究レベルは国力に影響するとされる。スターンさんも「大学は社会を支えるとても重要な基盤」と表現する。今回のコロナ渦で欧州の大学はどうなるのだろうか? 注視していきたい。

フランスのソルボンヌ大。世界最古の大学の一つだ

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