新型コロナ禍、保護猫カフェも「変革の時」

インスタにライブ動画、新たな飼い主の手に

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保護猫カフェ「さくら」でくつろぐ猫

 「諦めの悪い保護猫カフェがあることを知ってほしい」。記者にメールが届いたのは、全国で新型コロナウイルスの感染が拡大していた4月中旬だった。各地の保護猫カフェが休業を余儀なくされ、譲渡会も軒並み中止になる中、この苦境を「変革の時」と捉え、プラスの力に変えようと動き始めた人たちがいた。(共同通信=沢田和樹)

 ▽営業中を超える反響

 埼玉県の南東部にある越谷市。東武伊勢崎線の越谷駅からほど近いビル4階にある保護猫カフェ「さくら」は、5月でオープンから1年を迎えた。捨て猫や野良猫を捕まえた「保護主」から猫を預かり、カフェで新たな飼い主と出会う場を提供している。約20匹の猫の中には、目の見えない「まる」や足を脱臼している「もみじ」、多頭飼育崩壊の家庭から保護された「とら」など、さまざまな境遇の猫がいる。これまでに50匹以上を譲渡につなげてきた。

 冒頭のメールの送り主は、さくらを運営する稲垣将治(いながき・まさはる)さん(35)だ。「いながき動物病院」の院長でもあり、野良猫の不妊去勢手術を主に手掛けている。昨年は年間7千匹以上の手術をした。猫のむやみな繁殖を避けるため、野良猫を捕獲(Trap)し、不妊去勢手術(Neuter)をした上で元の場所に戻す(Return)という「TNR」活動の一翼を担ってきた。

保護猫カフェ「さくら」を運営する稲垣将治さん

 稲垣さんは、保護主からの手術依頼を請け負う。手術後の猫は、地域ぐるみで育てる「地域猫」として元にいた場所に戻すのがTNR活動の流れだが、けがをしているなどの事情で保護主が一時的に飼うことも多い。そんな猫の引き取り先を探す手助けをし、保護主の負担を減らすための場所として「さくら」が作られた。飼育費もさくらが負担している。

 政府の緊急事態宣言が発令された後の4月8日以降、客やスタッフの感染防止のために店は休業、イベントも全て中止にした。それでも猫の世話をするためにスタッフは出勤する必要がある。

 稲垣さんはいったん猫を保護主に返すことも考えたが、猫にとって住む場所を変えるのは大きなストレスだ。やっとカフェになじんだ猫もいる。スタッフと相談し、何らかの形で譲渡を続けることが猫や保護主のためになると考え、活動の続行を決めた。

 「退路を断つことにしました。今できることを全部やる。この限られた条件下で、思い付きでもなんでもいいからやってみる」 。稲垣さんは休業を機にカフェのブログで決意表明をした。 「どんな条件下であっても1匹でも多くの保護猫を譲渡する」

 ▽手探り

 さくらの店長は稲垣さんの妻で同じく獣医師の桃子(ももこ)さん(34)が務め、他に約50人のボランティアスタッフが支えている。休業中もスタッフが入れ替わりで猫の世話をしに駆け付ける。

 客が来ない中でも猫の魅力を広く伝えるため、スタッフはスマートフォンを片手に写真共有アプリ「インスタグラム」で猫の動画を配信し始めた。1日に1~3回程度、それぞれ約1時間のライブ配信だ。視聴者からは「かわいい」「カフェにも行ってみたい」など多くのコメントが付く。

保護猫カフェ「さくら」の猫をライブ動画配信する様子

 ユーチューブやフェイスブックでも発信をしているが、インスタグラムがもっとも反応が良いという。時には稲垣さんへのインタビューなどの企画も。視聴者から質問することもでき、好評だ。

 手探りで始めたが、休業中の1カ月で20匹以上の猫に引き取り希望の声が掛かった。稲垣さんは「軒並み譲渡会は中止され、外出自粛でネットを見る機会も多いのだと思う。それにしても、通常営業中より多いペースだ」と驚く。

 全国で猫や犬をネット上で紹介するオンライン譲渡会も広まってきた。しかし、外出自粛中に引き取られた動物が、普段の生活に戻った後に捨てられては元も子もない。飼い主の見極めも保護猫カフェの大きな役割だ。さくらでは引き取り希望者には予約制で来店してもらう。1週間~1カ月程度の試し飼いの期間に自宅で本当に飼えるかどうかを確認してもらい、譲渡に至る。

 動画をきっかけに譲渡へとつながるケースが出てきたため、新たな猫をカフェに迎え入れることもできている。ただ、緊急事態宣言は約1カ月半に及び、カフェの収入がない中、光熱費や家賃など50万円以上の出費が重くのしかかった。稲垣さんは「インスタの動画がお金になるわけではない。うちも動物病院の収入がなければ続けられていない。崩壊する店も出てくると思う」と話す。

インスタグラムのライブ配信で、獣医になった経緯を話す稲垣将治さん

 さくらでは、4月末にオンラインショップを開設した。保護猫の写真が載ったポストカードやキーホルダーを販売し、金額に寄付金相当額を上乗せして支援を募っている。今後は、動物病院と保護猫カフェを運営する経験を生かし、知識やノウハウを伝える有料のオンラインサロン開設など、さまざまな形を模索しているという。

 5月25日に緊急事態宣言が全面解除され、さくらの営業は26日から再開した。「来客に頼る店では持たない。今は大きな転換点だ。1年後には全く違う形の保護猫カフェになっていても良いのではないか。みんなにまねをしてもらえるようなシステムを作れたら良いですね」

 ▽正念場

 保護猫カフェは保護団体としての性質も色濃く、最低限の利益で維持している店も多い。「もうけになる業種ではなく、ただでさえほとんどの店は経営が厳しい。休業から戻ってこられない店は出てくるだろう」。そう話すのは、保護猫カフェ協会(東京)代表理事の山本葉子(やまもと・ようこ)さん(59)だ。

 保護猫カフェにいる猫は、一般の猫カフェにいる人気の高いブランド猫と比べ、引き取り先が見つかりにくい猫が多い。「保護猫カフェが連鎖的に閉業すれば、残った猫の引き取り先を見つけるのは容易ではない」と懸念する。

 山本さんが代表を務めるNPO法人「東京キャットガーディアン」では、2008年からグッズショップを兼ねた保護猫カフェを運営し、これまでに計7400匹以上を譲渡につなげてきた。カフェや別施設で世話をする猫を含め、常時約300匹を保護している

 規模が大きく、それだけ外部から引き取る猫も多い。休業すれば、多くの猫を救う機会を失うことになりかねない。そのため、感染防止策を徹底して営業を続けてきたが、外出自粛で来客が減り、ホームセンターなどで実施してきた譲渡会も中止を余儀なくされた。3月、4月の譲渡数は例年の半分ほどだった。

東京キャットガーディアンがユーチューブでライブ配信する「ずっとねこライブ」

 キャットガーディアンでは10年以上前からユーチューブ内にチャンネルを設け、保護猫の様子を動画で配信してきた。4月からは1日約3時間、保護猫に密着して動画を生配信する「ずっとねこライブ」も始めた。猫の魅力を発信しつつ、再生数に応じて広告収入も得られる。山本さんは「カフェの日常を見てもらい、視聴者に大きな負担なく支援してもらえる形を目指している。かわいい猫を見に来ることが制限される中、どの店も動画コンテンツの対価や寄付金を受け取れる仕組みを作る必要があるのではないか」と指摘した。

 5月には、苦境にあえぐカフェを支援する取り組みとしてウェブサイト「Cat Shelter AID」を開設した。外出自粛で広まったオンライン飲み会などで背景画像に使える保護猫の写真やイラストを販売できるサイトだ。さまざまな保護猫カフェに出品を呼び掛け、売り上げは手数料を除いて販売したカフェに入る仕組みになっている。

保護猫カフェ協会が運営するウェブサイト「Cat Shelter AID」

 春は出産期で子猫が増え、自治体の殺処分を避けるためには正念場だ。子猫は人気だが、譲渡の機会を失って時間が経過すれば、あっという間に大きくなる。山本さんは「飼い主が見つかるかどうかは、猫にとって生きるか死ぬかの問題だ。なりふり構っていられない」と訴えた。

 今後は人が密集しない形での譲渡会開催も視野に入れていくという。実店舗とネットでの活動の両輪がうまく回れば、保護猫カフェは一層社会に定着し、身近な存在となりそうだ。