「雨降るモスクワの激闘から12年。現在も変わらぬ“戦術的要素”を考察する」

新型コロナウイルスの影響で各国リーグ戦が中断、または打ち切りとなっている現在、過去の名勝負を改めて見返せば、学ぶべき点や新たな発見があるはずだ。

そこで今回は、2007-08シーズンのチャンピオンズリーグ決勝、マンチェスター・ユナイテッド×チェルシーを題材とし、近年の戦術的トレンドを振り返りつつ、12年が経った今日も不変である“戦術的要素”を考察していきたい。

名将が施したのは特異な戦術ではなく…

PK戦までもつれたチェルシーとの激闘を制した“赤い悪魔”のスタメンを見ると、懐かしい面々が並ぶ。

フォーメーションは中盤フラットのオーソドックスな4-4-2。

好セーブを披露したエトヴィン・ファン・デル・サールが守護神を務め、最終ラインは右からウェズ・ブラウン、リオ・ファーディナンド、ネマニャ・ヴィディッチ、パトリス・エヴラ。ダブルボランチはマイケル・キャリックと司令塔のポール・スコールズ。

右サイドにバランサーのオーウェン・ハーグリーヴス、左サイドには打点の高いヘディングで先制点を決めたクリスティアーノ・ロナウドが配置され、最前線は献身的な動きが光るウェイン・ルーニーとカルロス・テベスがコンビを形成した。

名将サー・アレックス・ファーガソンに率いられたユナイテッドは、非常にシンプルかつ手堅い試合運びを常としていた。

システムやビルドアップの局面で、戦術的に特異なことをしている訳ではない。ハードワークが根幹にあり、たとえ多くのチャンスを作ることができなくても、セットプレーからの1発で勝ってしまうような、憎たらしいほどの勝負強さがあった。

チェルシーとのファイナルでも、タフな試合を焦れずに戦うユナイテッドらしさは全開。特に2トップのルーニーとテベスのプレッシングが生命線となっており、この試合ではベンチ外となっていたパク・チソンは持ち前の運動量を活かして戦術の体現者となっていた。

フォーマットは変わらず受け継がれている

ゲームキャプテンを務めたファーディナンドがビッグイヤーを掲げてから、まもなく12年が経つ。思えばこの10年余りで、様々な戦術のトレンドがあった。

ペップ・グアルディオラがバルセロナで構築し、フットボール界を席巻したポゼッションスタイル。そのスタイルにビセンテ・デル・ボスケがバランスを加えたスペイン代表は、2010年のワールドカップ、2012年のEUROを制した。

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2012年EURO決勝のイタリア戦で先制ゴールを決めるダビド・シルバ。イニエスタのスルーパスが半端ない…。

同時期のドイツでは、ゲーゲンプレスの生みの親であるユルゲン・クロップがドルトムントを躍進させる。

2014年のワールドカップではオランダ、コスタリカといった3バック(5バック)が採用されたチームが勝ち進むと、4バックを基本とするクラブが多かったイングランド・プレミアリーグでも3バックが流行した。

2013-14シーズンにアトレティコ・マドリー、2015-16シーズンにレスターがそれぞれリーグ王者となり、堅守速攻型の彼らが欧州の舞台でも結果を残すと、ハードワークの重要性にスポットライトが当たる。

昨季にはクロップ率いるリヴァプールが、攻守にバランスの取れた完成度の高いスタイルで欧州王者に輝いている。

2010年前後に栄華を極めたポゼッションスタイルはかつてほどの強さを誇ることができなくなり、ハードワークを売りとしたチームが徐々に盛り返しを見せてきた。

ここ10年ほどで様々な戦術的トレンドが生まれても、ファーガソン時代のユナイテッドが披露した、運動量豊富な手堅いサッカーのフォーマットは変わらず受け継がれている。

しかし、例えばファッションでも音楽でも、過去に流行したモノが再度評価され、ブームとなるのはよくある話だ。2020年代のフットボールが再びポゼッションに傾くのか、それともハードワークに傾くのか。非常に興味深い議題である。

written by ロッシ

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