たのきんトリオの学園ドラマ「ただいま放課後」と石坂智子「ありがとう」 1980年 5月26日 フジテレビ系ドラマ「ただいま放課後」第1話が放送された日

田原俊彦、近藤真彦、野村義男が顔を揃えた学園ドラマ「ただいま放課後」

TBS『3年B組金八先生』で脚光を浴びた田原俊彦、近藤真彦、野村義男の三人が顔を揃えた学園ドラマ『ただいま放課後』がフジテレビでスタートしたのは1980年5月26日。金八先生が終了して2ヶ月後のことだった。同時期に放映されていた日テレ青春シリーズの最末期作『あさひが丘の大統領』や、数年後の大映ドラマ『スクール☆ウォーズ』などと共に、80年代の数少ないフィルム作品として制作された学園ドラマである。

正直なところ、自分はそこまで熱心に見てはいなかったので細かいディティールこそあまり憶えていないのだが、たのきんトリオの出演で話題沸騰だったことは印象深い。しかも “たのきんトリオ” という名称が決まったのも、ドラマ開始に伴って催されたイベントの場であった。

ジャニー喜多川発案、金八トリオから “たのきんトリオ” へ

それまで “金八トリオ” や “悪ガキトリオ” などと散漫だった彼らの呼び名を正式に決めようと一般公募が行なわれたそうだが、結局はジャニー喜多川の発案による “たのきんトリオ” に決まった。その発表の場となったのが、番組がスタートする約2週間前の5月11日に、ドラマのロケ地となった厚木にある大学内で開催されたイベント『放課後青空カーニバル』であった。

田原俊彦もあまり気に入っていなかったらしいこのネーミングは、たしかにあまりカッコいいものではない。念のため説明しておくと、田原・野村・近藤の苗字のアタマの文字を繋げた呼び名。すっかり慣らされてしまった昭和のテレビっ子にとっては何の抵抗もないけれども、当時を知らない若い世代はものすごい古臭さを感じるだろう。しかしそれまでにも “御三家” や “三人娘” など、トリオの名称はいかにも旧態依然としたものだったことを思えば正解だった気もする。個人的には決して嫌いじゃなかった。

女性アイドルの宝庫でもあった学園ドラマ、先生役で岡田奈々まで!

そんなわけで、番組のスタートにあたっては、“たのきんトリオ” の出演が大々的にアピールされることとなったが、全40話、第3シリーズに及ぶドラマの中で多忙な3人が顔を揃えたのは第1シリーズまでだった。田原と野村は15話まで、残留した近藤も第2シリーズが終わる28話までで、その後はたのきん不在のドラマとなる。

設定も第1シリーズで陸上部が舞台だったのが、第2シリーズからはバスケット部に替わり、堤大二郎や斉藤康彦が生徒役となった第3シリーズではラグビー部に。但し、ドラマの主人公はあくまでも教師役の本田博太郎(ドンガメ)と寺泉哲章(チョロ)のコンビであり、二人は一貫して出演した。男性アイドルだけでなく、川島なお美、早坂あきよ、久木田美弥、中島めぐみ、桂木文、辻沢杏子といった女性アイドルの宝庫だったことも忘れちゃいけない。第3シリーズに保健室の先生役で岡田奈々が登場したことも特筆に値するのだ。

凝りに凝った劇伴、珍しく学園ドラマに起用された大野克夫

東宝の制作ということもあって、学園ドラマの原点となった『青春とはなんだ』に始まる一連のシリーズと、後のスタジオドラマ『教師びんびん物語』の間を繋ぐような存在といえるかもしれない。実際にメインの監督は『これが青春だ』や『飛び出せ!青春』を手がけた土屋統吾郎、脚本陣も長野洋や上條逸雄ら手練のメンバーに委ねられたことで、設定や出演者が変わりつつも作品のクオリティが保たれていたはず。

そして珍しく学園ドラマに起用された大野克夫による音楽の役割も大きかった。『太陽にほえろ!』や『傷だらけの天使』といったアクションもののイメージが強い一方で、『寺内貫太郎一家』や『名探偵コナン』に至るまで作風は幅広い。

初めて全編を宅録で仕上げたという凝りに凝った劇伴は、諸場面に絶妙にマッチしていた(ダジャレじゃありません)。第3シリーズの渡辺岳夫の音楽も良かったが、やはり大野克夫による躍動感溢れるテーマ曲が耳に残る。放映当時にはサントラ盤の発売はなかったが、95年にCD『ただいま放課後 ミュージックファイル』バップからリリースされている。

珠玉の名歌、主題歌は石坂智子のデビュー曲「ありがとう」

そしてこのドラマを語る時に欠かせないのが主題歌である。第2シリーズで使われた田原俊彦「青春ひとりじめ」、第3シリーズの斉藤晴彦「もどかしさもSOMETIME」もさることながら、なんといっても石坂智子が歌った第1シリーズの「ありがとう」は珠玉の名歌として評されている。

79年に開かれた東芝EMIの『第1回歌謡タレントスカウトキャラバン』に優勝した石坂のデビュー曲。6月21日に発売されたレコードはドラマの人気とも相俟ってオリコン40位、12万枚のヒットとなった。リリースからちょうど1ヶ月後に『夜のヒットスタジオ』に出演したこともヒットの助力となったのは間違いない。

作詞作曲は「ラヴ・イズ・オーヴァー」の伊藤薫、アレンジは大村雅朗

作詞作曲の伊藤薫は同期の新人・甲斐智枝美のデビュー曲「スタア」も手がけており、しかも「ありがとう」と同日のリリースだったという事実には今さらながらに驚かされる。月並みな表現になってしまうけれども、心に響くメロディを紡ぐ才人である。代表作「ラヴ・イズ・オーヴァー」で知られる氏はまだ26才の俊英だった。

煌びやかなアレンジを施した大村雅朗にしても当時は29才になったばかりで、皆若かったのだ。その後はカラオケなどでも愛唱され、当時のヒットの規模を超えてスタンダード化した感もある。

聴く度に優しい気持ちにさせてくれる「ありがとう」を、80年代ドラマ主題歌のエヴァーグリーンとして勝手に殿堂入りさせていただきたい。『ただいま放課後』はここしばらく再放送もされていないし、今後もソフト化は難しいだろうが、いつかまたドラマ込みでこの名曲を心ゆくまで味わいたいものである。

カタリベ: 鈴木啓之

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