「ウィズコロナ」「ポストコロナ」は世界がどう変わるのか

新型コロナウイルスの感染拡大に一服感が広がり、5月14日から25日にかけて段階的に、全ての都道府県で緊急事態宣言が解除されました。

とはいえ、治療法が確立され、ワクチンが開発されるまでは、「新しい生活様式」に基づいて、まん延防止を第一としつつ社会経済活動との両立を図っていかねばならないでしょう。ワクチンの世界的な普及には早くて1年から1年半はかかるとみられています。

「新しい生活様式」とは、身体的距離の確保(最低1m、できるだけ2m空ける)やマスクの着用、手洗いに加え、日常生活での「3密」(密集、密接、密閉)を回避する生活様式です。

また、新しい働き方として、在宅勤務(テレワーク)やローテーション勤務、時差出勤や自転車通勤、オンライン上での会議や名刺交換などにより、人と人との接触を低減することが要請されています。新型コロナウイルスを「克服」するまでは、第2波、第3波の感染拡大を警戒した「新しい生活様式」に基づいて生活する「ウィズコロナ」がしばらく続く見通しです。


「新しい生活様式」で注目されるリモート化

信用収縮が実体経済の悪化につながった2008年リーマンショック時とは異なり、今回は人為的に経済活動を抑制したことで実体経済が縮小しています。世界各国での移動制限が、工場閉鎖など生産活動の停滞や、サプライチェーンの分断、供給不足を引き起こしました。

「移動の制限」は消費の減退も招いています。小売りや外食産業は、政府から休業を要請されました。旅行や観光など移動を前提とするサービスのほか、コンサートやスポーツ観戦などのエンターテイメント、アパレルなども不要不急の外出と判断され、店舗は一時的な閉鎖に追い込まれました。「移動の制限」による経済活動の停止は、雇用や所得の先行き不安を生みだし、倹約的な消費行動を促しています。

これに対して、主要な先進国は、大規模な経済政策によって企業や家計への資金繰りや生活支援を実施。同時に、各国中央銀行は過去に例を見ない規模や購入対象資金の拡大により、金融市場への資金供給を急増させました(下図)。こうした支援策により、都市封鎖下での経済活動の減少による企業の業績悪化や信用リスク、個人の雇用や所得の悪化をできる限り緩和するよう努めています。

世界景気は今年後半から回復に向かう見通しですが、世界的な感染拡大の第2波、第3波が2020年冬や2021年に生じ、再びロックダウンせざるを得なくなると、景気が再び下押しされる可能性が高まってきます。そのような観点から見ても、感染拡大を克服するまでは、第2波を封印するための「新しい生活様式」が継続すると考えられます。

「新しい生活様式」で注目されるリモート化

「新しい生活様式」は人々の行動そのものを変え、新たな枠組みの中で新しい需要や新しい供給構造を形成していくでしょう。「ウィズコロナ」「ポストコロナ」の世界では、「リモート化」を支援する商品やサービスの需要が拡大する見通しです。

小売はEコマース、教育はオンライン授業、金融はオンラインバンキング、医療は遠隔医療・ネット診察、外食はフードデリバリー、公共機関はeガバメントというように、移動が制限される中でも必要とされるサービス市場です。

緊急事態宣言が全国に拡大した4月後半の国内消費動向指数(下図)のコロナ発生前の1月後半からの変化率を見ると、Eコマースによる家電などの売り上げが急増したほか、家庭での食事回数の増加によるスーパーや酒店の売り上げ増、在宅で楽しめる娯楽としてのコンテンツ配信や在宅に伴う光熱費の支出増が顕著でした。一方、移動を伴う外食や娯楽、宿泊、飛行機・鉄道などの需要は大きく落ち込みました。

不要不急の外出を控え、なるべくオンラインで消費するよう推奨されたことで、ネットショッピングや食事のデリバリーサービス、バーチャル体験などの利用が拡大しています。

すでに消費者の購買がオンラインにシフトする流れがあったとはいえ、多くの人が自宅にいながら買い物や食事ができる手軽さを実感したことで、「ポストコロナ」でも宅配サービスの利用は増加するでしょう。小売り企業は従来のような広告や店舗展開を見直す必要が出てくるでしょう。

もっとも、経済活動の再開時には、これまで会えなかった人との外食や旅行、娯楽などへのニーズが高まり、「リベンジ消費」が急増するでしょう。反面、雇用不安や所得が減少した層は、今後より安全志向・倹約志向を強めてくる可能性が高い点には注意が必要です。

なお、今後の消費者の行動変化の一つとして、企業の社会貢献に対する注目度の高まりが予想されます。2011年の大震災時はソフトバンクやユニクロなどの支援策が注目されました。

今局面でも、医療資材の支援や治療薬・ワクチンの開発援助などの社会貢献的な動きをした企業が注目され、企業ブランドの向上が消費者による購入増につながる可能性は高いでしょう。

注:総合消費指数は、財とサービスから構成される。水色の棒グラフは大項目でそれぞれ左側の赤の棒グラフの財もしくはサービスの構成項目。黄緑色の棒グラフは左側に表示された大項目に含まれる小項目。
注:「EC」項目はオンライン消費のみ。「EC」以外の「業種別消費指数」はオフライン消費とオンライン消費どちらも含む。JCB消費NOWはJCBグループのカード会員のうち無作為に抽出した約100万人分決済データを活用して作成。国内会員に絞っているためインバウンド消費を含まない。
出所:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」より大和証券作成

リモートワークがニューノーマルに

リモートワークへのシフトは、先進的な企業ばかりでなく全世界で進められています。移動が制限されたことで、在宅でのリモートワークは急速に拡大し、リモート会議も広く利用されるようになってきています。「ポストコロナ」にシフトしても、これまでと同じように企業に出向いて面談したり出張したりする必要性は感じられにくくなっているでしょう。

もちろん、初顔合わせや雑談など対面で行って雰囲気を感じたり仲良くなったりしておきたいとのニーズは一定程度残るでしょうが、移動時間と必要としない便利さなどが実感されたことにより、初回は実際に面談しても、2回目以降はリモート面談を選ぶというように併用される可能性は高まっています。

居住地や家屋の選択にも変化が生じると予想されます。リモートワークやオンライン授業が浸透したことで、時間や場所を選ばずに仕事や学習を行うことができるようになっています。一部の企業は、コロナの収束後も、リモートワークを継続する方針を示しています。

出勤回数が減少すれば、通勤に便利な都心よりも、郊外の自然に身近な広い家を好むようになるかもしれましせん。また、家族全員が別々にオンラインで作業することが当たり前になってくると、ネット環境の整備や一人ひとりの作業スペースの確保を意識した間取りの家屋が設計・販売されるようになってくるでしょう。

「移動の制限」が事業転換への圧力に

一方、「移動の制限」が継続し需要が抑制される業界では、厳しい状況が続くと予想されます。旅行や航空、自動車業界などがその代表です。事業モデルそのものを変えなければならない業界もあるでしょう。

たとえば、鉄道や航空業界では、「3密」を回避した乗車を確保するために、乗客あるいは運航会社は従来よりも高いコストを支払わなければならないかもしれません。航空会社はコロナ前のような大規模輸送に代わり、単なる移動手段以外の付加価値をつける必要が出てくるでしょう。

旅行や観光分野では、今までのリアルな移動に対して、VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実感)を利用した観光体験が広く普及するかもしれません。すでに、名画を3Dデータ化しVR空間内で手に取るように鑑賞できるサービスなども提供され始めています。

「新しい生活様式」から生まれるニーズにいかに素早く対応してビジネス展開していけるか。「ウィズコロナ」「ポストコロナ」時代に強い企業に必要とされることでしょう。

<文:シニアストラテジスト 山田雪乃>

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