イーストウッドが、世界的なベストセラー小説を映画化した1995年作品。彼とメリル・ストリープがW主演を務めた大ヒット作だが、傑作ぞろいのイーストウッドの監督作の中では、評価は決して高くないように思える。撮影のためにこの地を訪れた写真家と小さな農場の主婦が繰り広げる4日間のラブストーリーだ。
“アクション”のイメージが強いイーストウッドには珍しく会話劇で、主婦が遺した日記の体裁を採っているため、ほとんどがストリープの視点から描かれる。そこで彼の“視線”の演出が冴えわたる。その真骨頂がクライマックスの雨の別れのシーンで、“見せない”視線の演出に鳥肌が立つ。しかもこれ以降、主演の彼が最後まで登場しないのだ。
見せない演出は、ストリープほどの演技巧者に対しても例外でない。演技の見せ場になるほど逆光や影で遮られ、丸出しにならないように計算されている。二人の立場が逆転する瞬間も、セリフや演技だけに頼らず、椅子に座る相手の後ろに立つという“ポーズの反転”によって視覚的に表現されるのだ。
それにしても、ストリープがアンナ・マニャーニに見えて仕方ない。彼女のキャスティングにこだわったのはイーストウッドだというが、イタリア出身の女性役になぜストリープを?という疑問は、登場した途端に吹き飛んでしまう。本作以降さらに輝きを増していくイーストウッドのフィルモグラフィーの中でも、未だに五指に入るほど好きな作品だ。★★★★★(外山真也)
監督・主演:クリント・イーストウッド
原作:ロバート・ジェームズ・ウォラー
主演:メリル・ストリープ
6月8日(月)にNHK BSプレミアムで放送