<大ヒット盤>岩佐美咲『右手と左手のブルース』幅広いレパートリーを歌い分ける

 通算9作目のシングル。2016年にAKB48を卒業してからも、演歌・歌謡曲部門では毎回週間1位をキープ。本作では、さらに歌謡曲・ポップス系にシフトした。

 表題曲は、家庭を持つ男性との恋に思い悩む女性を主人公とした歌謡曲。テンポの良さと、商店街BGM風の明るい伴奏、そして岩佐のよく響く安定感のある歌声ゆえ、重々しい感じはなくカラオケでノリ良く歌えそう。それにしても、「右手で私を抱きしめ 左手で家庭を絶対守ろうとするのね」や「右手であなたの頬打ち 左手で自分の涙を拭うしかなかった」など歌詞の対比が上手い。作詞はヒット実績のない“遠山源太”という人物だが、本作プロデュースの秋元康の変名ではと思うほどだ。

 カップリングには、人気のパチンコ機で流れるムード歌謡風の『ふたりの海物語』と、『ルージュの伝言』のカバー。前者は繊細な高音、後者はアニメに沿った明るい声と器用に歌い分ける。また、初回盤では『元気を出して』を少しコブシを混ぜて歌い、通常盤では『虹をわたって』『年下の男の子』といった昭和ポップスを軽快に歌う。アイドルを経験したからこそ、他の演歌歌手にない幅広いレパートリーがこなせる事に感心した。

 初回盤には、表題曲のミュージックビデオとメイキングを合計20分収録。これも25歳とは思えぬほど、受け答えが上手い。彼女の前向きな姿勢から、経験を生かすも殺すも、自分のやる気次第だとそれとなく教わるはず。

(徳間ジャパンコミュニケーションズ・海物語コラボ盤1091円+税)=臼井孝

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