9年ぶりに復活した米国の有人宇宙船 民間企業が開発、「新時代到来を告げる」

国際宇宙ステーションに入るNASAのロバート・ベンケン飛行士(右から2人目、NASAテレビから)

 米宇宙企業スペースXは、5月30日午後3時22分(日本時間31日午前4時22分)、米航空宇宙局(NASA)の飛行士2人を乗せた新型宇宙船「クルードラゴン」を、米フロリダ州のケネディ宇宙センターからファルコン9ロケットで打ち上げた。約19時間後、国際宇宙ステーションに到着し、打ち上げは成功した。米国による有人宇宙船は2011年に退役したスペースシャトル以来となり、9年ぶりに復活した。民間企業による世界初の有人宇宙船でもあり、米メディアも「有人宇宙飛行の新時代到来を告げる」と報じるなど、宇宙開発が新たな局面に入ったといえる。地球への帰還まで成功すれば、日本人飛行士の野口聡一(のぐち・そういち)さんが8月にも搭乗する。(47NEWS編集部)

宇宙船「クルードラゴン」に乗り込むため、ケネディ宇宙センターの施設から出発するダグラス・ハーリー(左)とロバート・ベンケン両飛行士(UPI=共同)

 今回、クルードラゴンに搭乗したのはNASAのダグラス・ハーリーさん(53)とロバート・ベンケンさん(49)で、2人ともスペースシャトルで2回の飛行経験がある。地球上では新型コロナウイルスが流行する中での飛行で、国際宇宙ステーションにウイルスを持ち込まないようにするため、2人は打ち上げまでの約2週間を外部から隔離されて過ごしてきた。

 当初は5月27日に打ち上げる予定だったが、悪天候のため打ち上げ17分前で中止となり、延期されていた。

ファルコン9ロケットの先端に搭載された宇宙船「クルードラゴン」(UPI=共同)

 仕切り直しとなった今回。定刻の30日午後3時22分、発射台でファルコン9ロケットのエンジンが点火し、勢いよく白煙を上げた後、オレンジ色の炎を噴き出しながらフロリダの午後の空に向かって力強く上昇を始めた。 

打ち上げられるファルコン9ロケット(AP=共同)

 トランプ米大統領も現地入りして打ち上げの様子を視察した。打ち上げ成功後の演説で「世界最高の米国の宇宙飛行士とロケットを米国の地から再び打ち上げた」「これまでの指導者は米国人宇宙飛行士の打ち上げを外国に依存していたが、もう終わりだ」と誇示した。

宇宙に向かうファルコン9ロケット(NASAテレビから)

 2人が乗ったクルードラゴンは、人が乗る円すい状のカプセルと直径4メートルの円筒形の貨物室から構成され、全長は8・1メートル。これまでステーションに無人で物資を輸送してきたドラゴン宇宙船に、緊急帰還や生命維持、ステーションへの自動接続の機能を追加した。開発したスペースXは、電気自動車大手テスラを創業した起業家イーロン・マスク氏が率いる。

打ち上げ後のクルードラゴン内(NASAテレビから)

 飛行士の2人はステーションへの途上、機体に「エンデバー」と名付けたと明らかにした。2人とも初めて搭乗したスペースシャトルがエンデバーだったという。飛行中、温度や湿度などの居住環境を確認、一部の手動操縦を試した。

国際宇宙ステーション(手前)にドッキングするクルードラゴン(NASAテレビから)

 クルードラゴンは打ち上げ後、約19時間の航海を経てステーションにドッキングした。ハッチが開くと最初にベンケンさんが、続いてハーリーさんがステーションに入り、滞在中のクルーから歓迎された。

ステーションに入るハーリーさん(右から2人目、NASAテレビから)

 2人はステーションに1カ月以上滞在する予定。滞在後は再びクルードラゴンに乗り込み、パラシュートを使ってフロリダ沖の大西洋に着水する。

 今回の飛行はあくまで「試験機」の位置付けだ。次回、早ければ8月末にも打ち上げられる「1号機」には日本人宇宙飛行士の野口聡一さんがNASAの飛行士3人と共に搭乗する。野口さんは米国のスペースシャトル、ロシアのソユーズ宇宙船に続く3回目の飛行となる。3種類の宇宙船に搭乗するのは現役飛行士では初めてだ。

クルードラゴンを打ち上げ後に戻ってきた1段目のファルコン9ロケット(画面左、NASAテレビから)

 米国はコストの高さなどからスペースシャトルの運用をやめた後、ステーションへの飛行士輸送をロシアのソユーズ宇宙船に頼ってきた。NASAはスペースシャトル後継機の開発をスペースXと米航空宇宙機器大手ボーイングにそれぞれ委託したが、ボーイングの宇宙船スターライナーは昨年12月に無人で打ち上げたが、トラブルでステーションに到達できず、改めて無人で試験飛行する。

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