「無駄遣いの象徴」とやゆ「私のしごと館」は今…ロボット開発拠点として存在感

再スタートから5年を迎えたKICKの内部。研究スペースの入居は順調だが、活用しにくいスペースも多い(木津川市・精華町)

 閉館した職業体験施設「私のしごと館」を再利用した京都府の研究開発拠点「けいはんなオープンイノベーションセンター」(KICK、京都府木津川市・精華町)が、開設から5年を迎えた。入居団体の増加やロボット開発拠点の完成などで徐々に存在感を強めているが、「無駄遣いの象徴」とやゆされた巨大施設を使い切る難しさにも直面している。

 しごと館は、中高生が約40種類の職業を体験できる施設として2003年に整備された。だが、毎年10億円以上の赤字を出す運営に批判が集まり、10年に閉館。KICKは国から無償譲渡を受けた府が、新たな技術革新につながる研究拠点として15年4月に開設した。
 この5年で最も目立つ成果は、研究スペースの利用の伸びだ。かつて控室などとして使われた部屋を安価で貸し出し、入居する企業や団体は、初年度の7から19年度末は21に増加。次世代蓄電池や植物工場、微細加工などの研究が進められている。
 KICKを運営する公益財団法人・京都産業21によると、貸しスペースの稼働率は8割台で推移。入居企業の入れ替わりを考えるとほぼ限界に近い状態といい、「入居希望の見学も相次いでいる」という。
 今年4月に加わった京都機械工具(KTC、本社・京都府久御山町)は、「KICK周辺には最先端の研究機関が集まり、イノベーションのハブ(結節点)になると認識している。そこに飛び込むことで、自社だけではできない開発を一緒に進めたい」と入居理由を説明する。
 さらに機能強化も進められている。府は昨年4月に「けいはんなロボット技術センター」をKICK内に開設した。広さ約1500平方メートル、天井高5メートルと大きすぎて活用が難しかった空間を転用し、企業などのロボット開発を支援する環境を整えた。
 同センターでは初年度、複数台が協調して動くロボットの実験など想定を超える144件の利用があったという。小型無人機(ドローン)のレースやロボット競技会などの会場としてもアピールを始めている。

 ただ、581億円の巨額を投じて整備された3階建て延べ床面積約3万5千平方メートルの広大な施設には、まだ活用しきれていない部分が多く残る。
 特に利用が難しいのは、かつての入り口ロビーだった吹き抜けのエリアだ。天井が高い上、柱も多く、エスカレーターもある。そのほか3面スクリーンを持つシアターや210人収容のホールなどもあるが、展示会やセミナーでしか活用できていないのが現状という。
 府はKICKの5年間を「入居数も順調に増え、大きく育つ企業も出てきた」としつつ、「使い勝手が悪い部分もあり、さらに知恵を絞りたい」という。今年3月には、第5世代(5G)移動通信システムの基地局を整備するなど開発環境の充実も図り、「近隣の研究機関との入居団体の共同プロジェクトもさらにつなげていきたい」としている。

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