匿名の作法

 いじめ、誹謗(ひぼう)、中傷…どこかで読むか聞くかした覚えがある。他者に向けられる攻撃性の根っこにあるのは、生き物としての生存本能なのかもしれない-と。だから、理屈でやめられない。だが、その衝動は制御されなければならない。本能の対義語は「理性」だ▲人気テレビ番組に出演していた22歳の女性プロレスラーが、ネットを通じて番組内での言動を強く非難されたことに悩み、自ら命を絶った。番組は打ち切りが決まった▲匿名空間が引き起こした悲劇-と政府は、悪意のある投稿を抑止するため、発信者の特定を容易にする制度改正に乗り出す構えだ。しかし“加害者探し”だけでは問題を解決できない。規制の強化には別の危険も潜む▲たとえ匿名空間であっても自分は加害者にならない、と一人一人が決意するしかない。きれいごとかもしれない。でも、それが一番の早道だと信じる。皆が一度に決意できたら、加害者は一度にいなくなる▲匿名に守られて卑劣な振る舞いをしていないか、点検する方法がある。同じ中身を自宅の玄関に張り紙できるか、教室や職場で言えるか、家族に話せるか-と、送信の前に自問してみるのだ▲中傷投稿の経験者と名乗る人物の書き込みを見つけた。〈これからでもいい、これからでもいいからみんな変わろう〉(智)

 


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