伝統の“強さ”を継承 「悔しい」で終わらせない 涙をふいて 部活で得た財産<5完>

12歳から入った寮での食事中に笑顔を見せる山崎(中央)。「大学で日本一」という新たな目標へ踏み出している=諫早市

 長崎日大高柔道部の道場には、来年の東京五輪男子81キロ級代表の永瀬貴規をはじめ、歴代の先輩たちの“強さ”を物語る新聞記事や賞状が並ぶ。だが、そこに今季のものはない。「すごく悔しい」。主将の山崎一秀は素直な気持ちを口にした。
 1月の県選手権個人無差別級決勝で、10分以上に及ぶ延長戦を制して優勝。春の全国切符をつかんだが、その舞台は失われ、金鷲旗やインターハイ、団体6連覇中の県高総体も消えた。冬のあの試合が高校最後の公式戦になった。
 そんな想像を絶する「悔しい」を経た今、言えるようになった。「もう気持ちの整理はできた」。同じ道場で汗を流してきたOBたちや恩師のおかげだと心から思う。
 松本太一監督はインターハイ中止決定後、保護者らに「軽い言葉は掛けないでほしい」とお願いした上で、卒業生からのビデオレターを編集。LINE(ライン)で送ってくれた。「君たちの気持ちが一番分かる人たちからのメッセージ」という10分ほどの動画は、長崎日大中時代から学んできたことを、再確認させてくれた。
 身長155センチ、体重54キロの12歳で福岡の親元を離れ、松本監督の自宅兼寮に入った。覚えているのは「こんなはずじゃなかった」という衝撃だ。練習の質、学校生活の大切さ、先輩たちの力…。自ら選んだ道の始まりは「考えが甘かった」。
 でも、今は「ここで柔道ができて良かった。人として成長できた」と胸を張って言える。そして、苦しい中で次への一歩を踏み出せた。「大学で日本一」という新たな目標に向け、残りの時間を無駄にしないと。
 ビデオレターにこんな言葉があった。「今年は試合で日本一を目指すことはできないけど、チームの絆と努力で日本一を」。ほかにも「悔しい」で終わってはいけないと奮い立たせてくれるものもあった。この道場の信念はあくまでも「鍛錬」。それを試されるような気がしてきた。
 4月、中学1年の弟も同じ道場に入った。「高校からでいいんじゃない?」と勧めたが「行きたい」と言った。しばらくは自分と同じ衝撃を受けるだろうが、その道に間違いはないはずだ。
 過去に類を見ない年の主将として、後輩たちにはこう言ってやりたい。「柔道も勉強も生活面もまだまだ緩いから、しっかりしてほしい。受け継がれてきたことを守ってほしい」。残りの時間で、偉大な先輩たちに負けない“強さ”を身につけて。

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