三菱重工 新型コロナが落とす影 長引く売却交渉、構想の見直し

修繕のためドックに入ったコスタ・アトランチカ。4月になって船内集団感染が判明した=三菱重工業長崎造船所香焼工場(2月22日撮影)

 三菱重工業長崎造船所香焼工場(長崎市香焼町)に停泊中のクルーズ船内で起きた新型コロナウイルス集団感染は、三菱の事業に影響している。大島造船所(西海市)への同工場売却交渉は長引き、クルーズ船修繕拠点化構想は見直しを迫られた。一方、本工場(長崎市飽の浦町)に建設中の航空機エンジン部品工場にもコロナの影が差すが、三菱は予定通り今年中の生産開始を目指す。

 「検討そのものは順調」。11日、三菱重工の決算会見で泉沢清次社長は香焼工場売却交渉の進捗(しんちょく)について、こう強調した。当初は3月合意を目指していたが、詰めるべき検討課題がまだ残り、「いつごろまでにとはっきり明言できる状況ではない」とも述べた。
 同工場の修繕ドックは三菱が所有し続ける方針で、国内最大級の建造ドックなど他の設備を巡り交渉中。両社の関係者によると、譲渡の範囲や金額のほか、大島側に移る三菱の従業員の処遇をどうするかも未定という。
 同工場の受注残は、液化石油ガス(LPG)運搬船を6月末に引き渡すと、タンカー1隻と橋などの海洋構造物3件を残すのみ。譲渡の時期がずれ込むほど「造るものが無いまま、固定費だけ生じる時期が長くなる」(両社関係者)というジレンマがある。ところがクルーズ船コスタ・アトランチカの船内集団感染で交渉は中断。近く同船が出港次第、再び本格化させる。
 新型コロナの世界的流行で荷動きが鈍化、船会社の発注意欲も下がっている。それでも、ある大島関係者は「2、3年我慢すれば需要は戻る」と分析、同工場買収に前向きな姿勢を崩していない。その上で「(三菱と)合意できるのは秋以降か。引き継ぐとなれば来年の夏以降」とみる。

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 「やれることは十分にやったが感染は起こってしまった。何かが足りない。どうすべきか考えたい」。長崎造船所長を兼務する椎葉邦男・三菱造船常務は4月29日の会見で修繕事業の今後を問われ、こう述べた。泉沢氏も、船内集団感染の解決後にどうするか議論するとしている。
 昨年まで長崎港は全国屈指のクルーズ船寄港先として、訪日外国人の観光需要を取り込んでいた。その流れで三菱は香焼工場での修繕拠点化を計画。コスタ・アトランチカの修繕は小規模ながら、その受注第1号だった。国土交通省や県、長崎市、地元経済団体も三菱と連絡調整会議をつくり、受け入れ環境を整備しようとしている。
 しかし集団感染リスクが顕在化し、市民に不安や抵抗感が広がった。
 これを踏まえ中村法道知事は12日の定例会見で、寄港誘致や修繕拠点化の支援について「健康面のリスク管理など安心安全対策の徹底と、市民への十分な説明」が前提と強調。その上で「中長期的には(世界の)クルーズ事業は拡大する。大きな経済効果や雇用効果が期待できる」とコロナ禍後を見据える。
 かつてのように収益性の高い新造船の連続受注が見通せない中で、同省関係者も修繕拠点化を「長崎にとって貴重な産業の種。大事に育てた方がよいのではないか」との見方を示す。

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 一方、航空機エンジン部品工場について三菱は「市況回復後の増産を見据え、長崎新工場は計画通り立ち上げる」とする。取引先となる欧州航空機大手エアバスの生産は落ち込んでいる。だが三菱は、長崎から部品供給する小型機「A320neo」は短距離路線向けで需要回復が早いと見込んでいる。


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