上場企業「新型コロナウイルス影響」調査 (5月27日時点)

 政府は5月25日、当初5月末としていた新型コロナウイルス感染拡大に伴う「緊急事態宣言」を全国で解除した。企業活動は感染の2次拡大に配慮しながら、「緊急事態」から「平時」に戻ることになる。だが、上場企業でもレナウンが新型コロナを引き金に倒産するなど、企業業績への影響は深刻化している。
 5月27日までに、新型コロナ関連の影響や対応などを情報開示した上場企業は3,307社に達した。これは全上場企業3,789社の87.2%で、約9割に達する。業績の下方修正を発表した783社のマイナス分は、合計で売上高が5兆5,572億円、利益は3兆3,149億円に達した。
 2020年3月期決算の2,406社のうち、 5月27日までに2,220社(92.2%)が決算短信を発表した。このうち、次期(2021年3月期)の業績予想を「未定」とした企業は1,300社で約6割(58.5%)を占め、新型コロナで企業が先行きを見通せない実状を浮き彫りにしている。

  • ※本調査は、2020年1月23日から全上場企業の適時開示、HP上の「お知らせ」等を集計した。
  • ※「影響はない」、「影響は軽微」など、業績に影響のない企業は除外した。また、「新型コロナウイルス」の字句記載はあっても、直接的な影響を受けていないことを開示したケースも除外した。前回発表は5月21日(5月20日時点)。

コロワイドやワタミなどの外食大手が下方修正し、赤字転落

 情報開示した3,307社のうち、決算短信や月次売上報告、業績予想の修正などで新型コロナウイルスによる業績の下振れ影響は1,364社だった。一方、「影響の懸念がある」、「影響を精査中」、「影響確定は困難で織り込んでいない」などの開示は1,267社だった。
 下振れ影響を公表した1,364社のうち、783社が売上高や利益の減少などの業績予想、従来予想と実績との差異などで業績を下方修正した。業績の下方修正額のマイナスは合計で、売上高が5兆5,572億円、最終利益が3兆3,149億円に達した。
 業績下方修正額は、前回調査時(5月20日時点)で売上高が5兆3,580億円、最終利益が3兆1,479億円のマイナスだったが、1週間で売上高・利益のマイナス幅はそれぞれ約2,000億円膨らんだ。3月期決算の発表では、「業績予想値と実績値の差異」を公表し、従来の業績予想から下振れした決算数値で着地するケースが目立っている。
 外食大手のコロワイドは5月22日、2020年3月期決算を発表。臨時休業や時短営業の影響で来店客数が急減し、売上高は従来予想から226億円引き下げた。また、店舗の収益低下による減損損失を追加計上したため、最終利益は80億7,000万円減少し、16億2,400万円の黒字予想から64億4,700万円の赤字となった。
 このほか、居酒屋経営のワタミ(売上高▲53億7,200万円、利益▲34億4,500万円)の2020年3月期決算も、売上高・利益ともに前回発表予想から下振れした。4月以降、65店舗を閉店、収益性低下で店舗の減損処理を実施したことで、29億4,500万円の最終赤字に転落した。
 居酒屋など特定の業種は、自治体の要請に従って実施してきた休業や営業自粛要請が、段階的に緩和されつつある。だが、コロナ以前の客足に戻るには時間がかかるほか、感染防止対策などで収益性の低下も懸念され、今後も店舗の減損損失などに伴う特別損失の計上が続く可能性がある。

業績下方修正額の累計

2021年3月期の業績予想「未定」と「減収減益」で7割超え

【2020年3月期決算】
 5月27日までに決算短信で2020年3月期決算の公表は2,220社(3月期決算の上場企業の92.2%)で9割を超え、186社(同7.7%)が未発表となっている。
 2020年3月期決算の最多は、「減収減益」で819社(構成比36.8%)。次いで、「増収増益」が661社(29.7%)で、「減収減益」が7.1ポイント上回った。
 また、増収企業は1,140社(同51.3%)で、減収企業の1,080社(同48.6%)と、ほぼ拮抗している。利益面では、減益企業が1,298社(58.4%)と約6割に達した一方、増益企業は922社(同41.5%)で、減益企業が16.9ポイント上回り、上場企業にも利益低下が広がっている。

【2021年3月期決算見通し】
 次期(2021年3月期)の業績予想は、2,220社のうち、1,300社(構成比58.5%)と、6割近くが「未定」として開示していない。新型コロナの本格的な終息見通しが立たず、業績予想の算定が難しくなっている。一方、次期の業績予想を開示した920社では、最多は「減収減益」の388社だった。「未定」と「減収減益」で1,688社(同76.0%)と7割を超えた。

2021年3月期 業績予想

緊急事態宣言の解除後、「営業再開のお知らせ」が増加

 新型コロナウイルスの影響・対応の分類では、業績への影響のほか、店舗・拠点の休業、サービス停止の開示が281社あった。このうち、緊急事態宣言に伴う店舗休業や、休業延長の公表が184社(構成比65.4%)と6割を超えた。また、緊急事態宣言の解除後は、「営業再開お知らせ」などが24社あった。
 「その他」(906社)のうち、プラス効果については152社で、全体(3,307社)の4.5%にとどまった。マスク、消毒剤など衛生用品関連や「巣ごもり需要」で食料品の需要増、テレワーク実施による設備投資需要など、一部の関連業種は新型コロナによる様々な社会の変化が追い風になっている。
 また、社会変化を背景に、主にIT関連・教育関連・医療関連の3分野では、自社商品やサービスを公表するケースが197社あり、新型コロナによる大きな変化を、ビジネスチャンスと捉えて積極的にアピールする姿勢も見受けられる。
 このほか、「その他」のうち、金融機関からの資金借入、コミットメントラインによる融資枠の設定を公表した企業も125社あった。新型コロナウイルスの影響による経営環境の悪化に備え、金融機関から資金を調達し、手元資金を厚くする動きがさらに強まっている。

業績予想の取り下げ、製造・サービス・小売で8割

 新型コロナウイルスの影響を要因として、従来の業績予想を一旦取り下げ、「未定」としたのは、これまでに累計149社にのぼった。  これは業績を下方修正した783社の約2割(19.0%)を占める。事業環境の急激な悪化で、従来予想との大幅な乖離が見込まれるが、数値見通しが立たないケースが中心になっている。
 業種別では、最多は製造業の61社(同40.9%)で、4割を占めた。以下、サービス業36社(同24.1%)、小売業24社(同16.1%)と続き、上位3業種で121社(同81.2%)と8割を超えた。
 市場減退による取引先の減産やサプライチェーンの混乱などが響く製造業が最も多い。このほか、サービス業、小売業など店舗を運営するBtoC関連の企業が多く、営業再開による売上や、市況の回復が大きなカギを握っている。

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