80年代にハマったビートルズ、70年代生まれのボクはもちろん後追い世代 1987年 2月26日 ビートルズのアルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」がCDでリリースされた日

80年代に出会ったビートルズ、70年代に出会ったのは “ずうとるび”

80年代音楽サイトのリマインダーに、60年代に活躍したビートルズを取り上げるのは違うかな? とも思いましたが、1972年生まれの僕が、彼等の存在を知り、その音楽にハマったのは80年代のこと。そこには後追い世代ならではの青春の思い出もあったりします。そこで今回は、80年代に出会ったビートルズというテーマで筆を進めてみようと思います。

実は僕が出会ったのは、ビートルズよりも “ずうとるび” の方が先でした!!

幼少期の僕にとってビートルズは “イギリス版のずうとるび” という位置付けであり、1980年12月8日のジョン・レノンの射殺すら、当時8才だった僕にはまだピンときていませんでした。しかしながら、『ひらけ!ポンキッキ』の所々で使われている音楽や、様々なテレビのCMで、無意識のうちに断片的に彼等の楽曲は耳にしていました。そして、大人になってから、それらの音の断片が「あー!この曲もビートルズだったのか!」と色々繋がってきます。

NHK-FMでビートルズ全曲オンエア、ここぞとばかりにエアチェック!

そんな僕も中学に上がり、本格的に彼等の音楽を聴き始めるようになりました。きっかけは、1985年の中1の夏休みに、NHK-FMで2週間かけて、ビートルズの全曲を流すという特集が組まれた事です(『軽音楽をあなたに』の特集の再放送)。

今ではこんな番組、なかなか無いですね。この時、アルバム曲がA面・B面と流れるコーナーのエアチェックに注力しながら聴いていましたが、途中で寝落ちしたり、カセットテープが足りなかったりして、全体の半分くらいしかうまく録音できませんでした。昔のFMラジオは、こういったポップスの歴史が学べるような、まとまった特集番組というのがしょっちゅうあったように思います。

不登校中に読み込んだ、香月利一の「ビートルズ事典」

また、その頃『ビートルズ事典』という本を購入し、読み漁っていた記憶もあります。この本の著者は香月利一さんという方ですが、先のラジオで解説者として出ていたのがこの方だったと気付いたのは随分後になってからのことでした。

ところで、僕は中3の時、不登校になった時期があり、担任の先生が心配して会いに来てくれた事がありました。その際、近況報告がてらビートルズの話をしたところ、先生は思いっきり食いついてくれて、後はずっとビートルズ談義! やがて、先生が僕にクイズ形式で色々なビートルズの問題を出すものの、それらに僕は全部正解してしまい、先生も面食らった様子でした。それもそのはず、こちらは不登校中に『ビートルズ事典』をみっちり読み込んでいましたから!

元々好きな先生でしたが、この日を境に、もっと大好きな先生になりました。卒業してからずっと会っていないK先生。元気にしているでしょうか。

一年がかりのCD化、四季を感じさせるようなリイシュー計画

このように、中1でビートルズにハマって以降、テープが擦り切れる程のビートルズ三昧という中学生活を送っていた訳ですが、ひとつ問題がありました。それは、彼等の曲が全然CD化されないという事でした(※1)。80年代も半ばとなると、主要なアーティストのアルバムはCDでリリースされるのが常識でしたが、ビートルズだけは待てど暮らせどCD化されません。背景には、レコード会社側とアーティスト側との著作権に関する法廷闘争の影響もあったらしいのですが、当時中学生だった僕はそんな事情など知る由もありません。

そのような状況で、アナログのLP盤を買い控えして待ち続けること1年半、ようやく彼等のアルバムがCD化されるニュースを知ったのは1987年初頭のことでした。「やったぞ!これで、あの時のラジオで録り逃した曲もコンプリートできる!!」

一年かけてのリイシュー、四季を感じさせるようなリリーススケジュール

しかし、それらのCDは一斉に発売された訳ではなく、なんと一年がかりで小出しにリイシューされていきました。2月に先ず初期の4枚、4月に中期の3枚、6月に『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』、8月に『ホワイト・アルバム(The Beatles)』と『イエロー・サブマリン』10月に『アビイ・ロード』と『レット・イット・ビー』… といった具合です。う~ん、焦らすなぁ…。

時に、ビートルズの歴史とその変化は、まるで、美しく移り変わる四季のようにも感じられます。例えば、初期の『プリーズ・プリーズ・ミー』からは、今にも植物が発芽しそうな早春の初々しさを、中期の『ヘルプ!』からは、新緑が繁るような勢いを、そして後期の『アビイ・ロード』からは彩り豊かな円熟の秋を、なんとなくイメージしてしまうのです。もしかすると、1987年にCD化された時の、リリース時の季節感が、思春期の原風景として刷り込まれているのかもしれません。

全曲一挙配信とは一線を画す、リアルタイム感のある体験

こうして、ビートルズのCD収集に明け暮れてから3年、1990年にポールが来日し、東京ドーム公演を観に行ったことで、僕とビートルズの80年代はめでたく完結しました。

今思えば、全くリアルタイム世代ではない僕が、多感な十代の時に宝箱をひとつひとつ開けるようなドキドキを感じながら、ビートルズに触れてゆくことができたのは、得難い貴重な体験でした。これは、リアルタイム世代の方々が、愛情を持って次世代にビートルズを継承しようと工夫を重ねてくれた賜物なのでしょう。改めて感謝の気持ちでいっぱいです。

昨今は、サブスクリプションで一挙に配信といった事も多く、便利になってとても良いですが、ビートルズ世代の先輩方が僕等にそうしてくれたように、僕等も、素晴らしい80年代の音楽を、若い人達にドキドキを添えて丁寧に伝えていければ、こんな風に思う今日この頃です。

あぁ、僕も歳をとったのかなあ。

※1:『アビイ・ロード』のみ1983年に日本で東芝EMIからCD化され発売になっているが、英国のEMIからクレームが入ったため販売中止となり、レコード店から回収された。

カタリベ: 古木秀典

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