『anan No.2200 守れ!夏の肌と髪。 綾野剛&星野源』これは書評ではなく、八つ当たり

 え待って。なにこれ別の世界線?だってほら見てよ。今期連ドラダブル主演の塩顔コンビが表紙を飾り(だから塩顔を一人選んだらもう片方は濃口にしろとあれほど)、彼らのインタビュー、お題は「美しくあるための私的流儀」。そして特集は「守れ!夏の肌と髪」。…えーと、もしや「anan」編集部のみんなは知らないのかな?知らなくてこの号出しちゃったのかな?じゃあ一応教えるね。もし知ってたらごめんね。

(大きく息を吸って)そのドラマ、やってないんすわ!美しく在るどころか一億総美容室行けてなくって、私は宅八郎、母はさだまさしなんすわ!守らにゃいかんのは肌と髪どころの騒ぎじゃないんすわ!そもそも我らは紫外線の下で例年通り夏を謳歌できるか、わからないんすわー!!

…すいません取り乱しました。ってな感じで思わず心の声が炸裂しちゃうほどに、あまりに明るい最新号。そのスタンスが妙に気になりポチッと購入した。

 雑誌「anan」の最新号は、お伝えしたとおり初夏の美容企画だ。38名もの美容賢者(呼ばれてみたいその肩書き)たちが、来たる夏の紫外線に負けない美容アイテムを紹介している。また汗やニオイ、ムダ毛など、これからの季節だからこそのお悩み相談コーナーも。第二特集の綾野剛×星野源のインタビューは、プライベートでも交流のある二人のエピソードも語られている。

 そんな風に続いていった通常営業。その様子が変わったのは、後半に差し掛かった頃のことだった。モノクロページにある、俳優やタレントなどによる連載ページでようやく「新型コロナウイルス」という文字を目にしたのだ。

 朝井リョウと古市憲寿の連載は「今週もZoomで収録!外出自粛で何が変わった?」とテーマを掲げ、近況報告をしあっている。朝井はYouTubeにアップされているダンスのレッスン動画を見ては家で踊り、古市は「どうでもいい会食の予定が消えていくから、想像以上に楽だし快適」と語っている。イラストエッセイストの犬山紙子は一気に増えたオンライン会議に備え、美肌を演出する照明「リングライト」なるものを購入。元NHKアナウンサーの堀潤は「新型コロナウイルスの影響(1)各国の経済対策」と題し、4月24日時点の状況を解説している。なお、そこには「1世帯に2枚ずつ、布マスクが配布されました」の文字が。いや、我が家まだ来てないんですけどね…。そうこうしてる間に非常事態宣言は解除され、各施設が再開されてるんですけどね…。閑話休題。

 なんだかすっごく不思議な感じ。なんせこれまではパラパラ〜と気楽にめくっていた雑誌なのに、今や一言一句、小さなキャプションまで舐めるように読んで、現在の、この状況に関する情報を見つけてはホッとして、見つけてはホッとしてを繰り返しているんだもん。そしてその反動なのか「Q.美容室でトリートメントする頻度は? 1位2〜3か月ごと 2位 1か月ごと 3位半年ごと」というアンケートを睨み付け、どこぞの国のフラワーアーティストが、何を思い立ったかオープンさせたという西麻布のハンバーガー店の情報を眺めながら、自分の顔から表情が、血の気が引いていくのがわかるんだもん。読み方激しすぎだろ。

 ふん、なんにも起きてないような顔しちゃってさ。平和で、おしゃれが楽しくて、かわいいをキープして、ご飯がおいしいみたいな顔してさ。いや、ご飯は私もおいしいけどさ。これはあれだ。多分、羨ましいんだ。だって「anan」はまるで新型コロナウイルスが感染拡大していない超平和な世界の雑誌みたいな顔してるんだもん。それは大きな決意をもってそうしてるんだろうけど、いいなぁその世界って、悲しいほどに羨ましくなった。わかってる。これは書評ではない、単なる八つ当たりだ。だってバックナンバーで、お家トレーニング特集とか、「今できること」を提案するような特集、ちゃんとやってるんだもん。わかってる。すまない。

 今年で創刊50周年を迎え、常に「今」を切り取り続けた雑誌は、ここに来て「あえて切り取らないことで浮き彫りになる『今』」を私たちに教えてくれた。あーあ、なんもなかったついこの間に戻りたい。って弱音を吐きたくなるけど、ちがーう!ビシバシ(自分に往復ビンタ)一日でも早く「anan」が提案するライフスタイルと私たちの生活にギャップがなくなる日が来るように、ベストを尽くせばいいわけよ!手洗ってうがいして、引き続き不要不急の外出は控えればいいわけよ!ま、どんだけ暮らしが落ち着きを取り戻しても、2〜3か月ごとにトリートメントはしないけどな!なんかあれだな、今日情緒不安定だな。あっははーそんな日もあるよねー。

(マガジンハウス 税込み650円)=アリー・マントワネット

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