コロナ社会、閉塞感深く アルコール依存表面化

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桜が丘病院で週1回開かれる依存症ミーティング。孤独で引きこもり、重症化して病院に運ばれてくるケースが多いという=熊本市西区
アルコール依存症の男性を診察する赤木健利医師(奥)。男性は「酒をコントロールできていると思っていたが、ある日戻れなくなっていた」と打ち明けた=熊本市西区の桜が丘病院

 「アルコール依存症のショータ(仮名)です。世間はどこもかしこもコロナでストレスがたまり、欲求を発散できません」

 熊本市西区の桜が丘病院で毎週開かれる依存症ミーティング。アルコール依存の5人とギャンブル依存の1人が輪になって語り合った。悩みを打ち明け、仲間がいることを確かめ合う。自身と向き合った告白は赤裸々で、ときに聞く者の胸を打つ。

 うつ病や統合失調症などの外来・入院治療を手掛ける精神科専門病院。うつ病患者の中にはアルコール依存症を合併した人が少なくないという。6人のうち2人は“コロナ後”に入院している。

 「1人で家に引きこもり、気付かぬうちに重症化して運ばれてくる人が多い」。赤木健利医師はミーティングの様子を見守りながらそれぞれの境遇をおもんぱかって言った。

 「熊本地震のときもそうだったが、困難を抱える人を受け入れる余裕が社会になくなったとき、依存症が表面化してくる」

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 新型コロナウイルスによって社会の閉塞[へいそく]感が深まる中、アルコール依存に陥る人や患者の重症化が懸念されている。1人の男性が、酒にまみれた半生を吐き出すように語った。

◆「ある日、戻れなくなっていた」

 アルコール依存症の男性(47)は入院する桜が丘病院(熊本市西区)の診察室で、冗舌にまくしたてた。「酒びたりの人生。酒をやめれば全く違う人生になるのは分かっているけど、そんな生き方ができるんだろうか」

 熊本市出身。アルコール依存症と自覚したのは37歳のときだ。離婚後、東京で派遣の仕事に就いたが長続きせず、孤独感が募った。週末に飲むぐらいだった酒量は徐々に増え、休日は朝から晩まで飲むようになった。

 仕事が終わるとコンビニに直行して酎ハイを飲み、自宅までに数軒あるコンビニ全てに立ち寄って1本ずつ飲み干す。「コンビニドリンカー」。男性は自嘲気味に語った。

 2年前に熊本に戻り別の病院に入院。退院後は抗酒薬を飲んで酒を断ち、散歩がてら図書館に行っては本を読み、趣味のギターを弾く日々。酒への欲求を抑えた生活を一変させたのが新型コロナウイルスだった。

 街に出てもシャッターが降り、人影もない。図書館も閉まり、立ち寄る先がなくなった。ギターは「世の中に迷惑をかける」と弾かなくなった。明るい気持ちになりたいと少しだけ酒を飲み、翌日は抗酒薬を服用した。ある日薬をうっかり飲み忘れると、もう薬がおっくうになった。

 「みんなマスクを着けて暗い表情。社会がイライラして怒りが自分に向かってくるような感じがした。欲求を抑えられなくなった」

 自宅周辺にはコンビニ3軒と24時間営業のスーパーが1軒。1軒ずつ飲みながら回り、帰宅後1~2時間寝て起きたらすぐ飲み歩く生活を3~4日続けた。数日空けては、その繰り返し。5月3日、気付いたら病院にいた。「コントロールしていると思っていたが、ある日戻れなくなっていた」と振り返る。

 同病院の赤木健利医師は「依存症患者の多くは孤独でストレスに弱い。飲み出すとコントロールが効かなくなり、酒のことしか考えられなくなる」と指摘する。

 世界保健機関(WHO)はコロナ禍でのストレスや孤立感を紛らわすための飲酒を回避するよう警鐘を鳴らし、日本アルコール・アディクション医学会も、依存が悪化しないよう友人とのコミュニケーションや規則正しい生活を呼び掛けている。

 「そんなのできたらとっくに酒をやめている」。そう言いながらも、回復を目指して治療に取り組む男性。7月末に退院予定だが、その後の生活は想像もできないという。

 「ひたすら考えるのは、酒をやめられるかやめられないか。でも、何も分からない。今後、どうやったらいいのか、何も分からない」(福井一基)