SDGsで見直される横浜防火帯建築を知ってますか?

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戦後、都市の不燃化を目的に、「耐火建築促進法」(1952年施行)に基づき、全国92都市で防火建築帯が指定された(このうち48が戦災都市)。本書『横浜防火帯建築を読み解く』(花伝社 発行、共栄書房 発売)は、横浜の関内・関外地区に全国に類を見ないほど高密度に建てられた防火帯建築の歴史といまを探求した本である。

焼け野原に民間の人々が建てた

横浜の中心部は戦災で焼け野原になり、戦後米軍に接収され、兵舎が立ち並んだ。その後も「関内牧場」と呼ばれる空き地が広がるところから復興が始まった。接収が解除されたのは1952年。復興の遅れが、防火帯建築が広がる要因にもなった。

全国92都市に総延長638キロの防火建築帯が指定されたが、地方都市では目抜き通りが指定されることが多かった。総延長では東京(約122キロ)、大阪(約119キロ)に次ぐ横浜(37キロ)だったが、中心部の面積に対する割合からすれば、横浜は突出していた。

鉄筋コンクリート造りの3、4階建て

個人の建物(店舗や住宅)の建設に国庫補助をする画期的な法律で、多くは鉄筋コンクリート造りの3、4階建てだった。横浜では住宅不足を解消するため、神奈川県住宅公社がユニークな方法を編み出した。下層部に店舗や事務所が入り、その上を屋上とみなし、敷地を貸借する方法だ。こうした下駄ばきアパートを含めて440棟が建設され、204棟が現存する。

近年の再開発で、姿を消しつつある横浜の防火帯建築に着目した横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授の藤岡泰寛さん、神奈川大学工学部建築学科教授の中井邦夫さんという2人の研究者のほか、建築、都市計画、まちづくり、行政の専門家でつくる「防火帯建築研究会」が、この5年間行ってきたシンポジウム、街歩き、公開講座の成果をまとめたのが本書である。

構成は以下の通り。

第1章 横浜防火帯建築とは何か
第2章 横浜の戦後復興 都市デザインの視点から
第3章 横浜防火帯建築の空間を読む
第4章 生活の舞台となった横浜防火帯建築
第5章 横浜防火帯建築を使い続ける知恵
第6章 戦後建築遺産としての横浜防火帯建築群を引き継ぐ
第7章 戦後建築遺産としての横浜防火帯建築群にいま学ぶ意味

下は店や事務所、上は住宅で4タイプ

藤岡さんは、建築の外観から4つのタイプに分類している。A 町家型(内階段アクセスタイプ)、B 雑居ビル型(外階段アクセスタイプ)、C 共同建築型(AまたはBの連結タイプ)、D 併存型(外廊下内階段複合タイプ)。1961年までの前期に建てられたものは共同所有が多く併存型の比率も高いが、1962年以降の後期になると単独所有が増え、雑居ビルが多くなっている。

「街並みへの貢献度が高い併存型のような規模の大きな防火帯建築が近年立て続けに取り壊されており、人々の印象のなかから加速度的に姿を消しつつある」

第3章では、中井さんが、馬車道や弁天通り、吉田町、伊勢佐木町、福富町、長者町通りなどの防火帯「建築」群を観察している。防火「帯」としての計画が未完に終わったが、「点」として各所に分散したことで、それぞれが異なったキャラクターをもつまちの「基点」になっていると指摘する。

都市空間形成のコアに

200メートルにわたり4棟が並ぶ吉田町防火帯建築群を「記念碑的街並み」、また、伊勢佐木町センタービルを「レトロモダン・コーナー」と形容するなど個別の建物を評価。そして「多様性・共存」、「表と裏/手前と奥」、「空所(スペース)の創成と連携」という意味をもつ都市空間形成のコアとなる建築と意義を見出している。

第4章は、建物のオーナーや商業者への聞き取りをもとにしたルポルタージュ。職住接近の立体的な生活ぶりやさまざまな人が商い、暮らしていたことがわかる。

リノベーションして「芸術不動産」に

最近は、クリエイターらが事務所やスタジオ、ギャラリーなどに活用する「芸術不動産」として使い続ける動きが出ているという。横浜市も支援している。

横浜は1963年に革新の飛鳥田一雄市長が誕生、68年に都市問題研究者の鳴海正泰氏と都市プランナーの田村明氏を起用し、都市デザインという手法で都市整備を進めてきた。これらは「みなとみらい21地区」の開発につながった。一方、かつての中心だった関内のポテンシャルは低下した。防火帯建築の跡地に超高層タワーマンションの建設も進んでいるが、それだけでいいのか。ストックとしての防火帯建築のリノベーションが進むことを本書は訴えている。それはSDGsという時代の要求にも対応しているように思う。

横浜の中心部がどこか他の都市と印象が違うのは、中層の街並みが続く防火帯建築のおかげであることがわかった。ちなみに横浜の中心部はJR根岸線の関内駅周辺である。県庁、市役所も近い。横浜駅周辺もにぎわっているが、歴史的には街はずれである。横浜の地理を知らない読者もいるので、念のため。

秋田県大館市の大火で延焼防止を実証

ところで、防火帯建築は実際に延焼防止に役立ったのか? 秋田県大館市は1953年の大火後に指定され、このときつくられた商店街共同建築が56年の再び起きた大火の際、有効に機能した。実際に延焼防止に効果があったことで評価が高まったという。

この頃つくられた全国の防火帯建築の多くはいま、シャッター商店街になっているのではないだろうか。山形市では若者たちによるリノベーションが行われている。大規模で先進的な横浜の取り組みが本書を通じて全国の地方都市に広がることを期待したい。

BOOKウォッチでは、関連で『台湾名建築めぐり』(エクスナレッジ)、『限界都市』(日経プレミアシリーズ)、『空き家活用術2 通りからはじまる"まち"のデザイン』(建築資料研究社)、『100万円で家を買い、週3日働く』(光文社新書)などを紹介している。

  • 書名:横浜防火帯建築を読み解く
  • サブタイトル: 現代に語りかける未完の都市建築
  • 監修・編集・著者名: 藤岡泰寛 編著、菅孝能、桂有生、中井邦夫、黒田和司、松井陽子、林一則、笠井三義 著
  • 出版社名: 花伝社 発行、共栄書房 発売
  • 出版年月日: 2020年3月25日
  • 定価: 本体2200円+税
  • 判型・ページ数: A5判・279ページ
  • ISBN: 9784763409201

(BOOKウォッチ編集部)