住宅ローンは繰り上げ返済すべき?返済方法の種類やタイミングを解説

《目次》- 住宅ローンの繰り上げ返済とは

*【アドバイザー:株式会社クロニクル 清水貴寿さん】1985年生まれ、中途採用でプロポライフグループへ入社。10年以上不動産営業の経験を積んで、現在は株式会社クロニクル・東京日本橋ショールームにて勤務*

住宅ローンの繰り上げ返済とは

住宅ローンの繰り上げ返済とは、住宅ローンの返済中に、まとまった資金などを使って残額の一部や全部を返済すること。残額をすべて一括で返済し、完済してしまう「全額繰り上げ返済」と、残額の一部を返済する「一部繰り上げ返済」があります。

毎月決まった金額の返済とは別に、予定外のタイミングで返済するのが繰り上げ返済。毎月の決まった返済やボーナス返済とは別に行うことで、住宅ローンの返済期間を短縮したり、借入残額を減らしたりできるので、余力の資金がある人であれば多くが検討する機会があるはずです。

ここでは、住宅ローンの繰り上げ返済をよりお得に無理なく進めるコツ、手続きの方法について詳しくご紹介していきます。

繰り上げ返済によるメリットとデメリットとは?

そもそもどんな目的で繰り上げ返済をするのでしょうか。ここでは、住宅ローンの繰り上げ返済によるメリットとデメリットをそれぞれご紹介します。

繰り上げ返済によるメリットは?

【繰り上げ返済によるメリット その1 】 利息を減らせる

住宅ローンは、借入残高に対して利息がつく仕組みになっています。ローンを返済するときには、元金に加えて利息を支払わなければなりません。繰り上げ返済によって、元金の一部または全額を前倒して返済することで、そのぶん支払う利息が減るので、予定していた総返済額と比べて返済額を減らすことができます。つまり、元金部分に相当する利息を支払う必要がなくなるということ。同じ繰り上げ返済をするのであれば、元金が多いときの方が、より利息軽減の効果が大きく、お得ということになります。

【繰り上げ返済によるメリット その2 】 返済期間を短縮できる

住宅ローンを組んだときの年齢や返済期間によっては、完済するのが70歳を超えてしまう……という人もいるかもしれません。もちろん退職金で一括返済をすることも可能ですが、余裕のある老後を過ごすためには、できるだけ定年前までに返済を終えておきたいところ。

繰り上げ返済をすることでトータルの返済期間を短縮することができ、将来のライフプランに余裕がうまれます。はやめのタイミングで繰り上げ返済をすることでより期間短縮の効果があります。

繰り上げ返済は、

繰上げ時期が早いほど
金利が高いほど
残高が大きいほど

メリットが大きいといえるようです。そのほか、保証料がかかっているローンの場合、保証料の返還が受けられるというのもメリットかもしれませんね。

繰り上げ返済によるデメリットは?

【繰り上げ返済によるデメリット その1 】 手数料がかかる

繰り上げ返済をするのに手数料がかかる金融機関があります。高額な設定をしているところは少ないので、それほど負担は多くありませんが、おおむね数千円から数万円程度のところが多くなっているようです。近年では、ネットバンキングやネット銀行で手数料が無料で繰り上げ返済ができるところもあります。手数料の面から考えれば、なるべくまとめて繰り上げ返済をした方が無駄なコストがかからずに済みますね。手数料の有無は金融機関によって異なるので、ローンを組むときに確認しておくとよいでしょう。

【繰り上げ返済によるデメリット その2 】 住宅ローン控除が使えなくなる

住宅ローン控除とは、「住宅借入金等特別控除」と呼ばれる制度の通称で、年末のローンの残高に応じて「税金が還付される」制度。繰り上げ返済をするとそのぶんローン残高が減るので、控除対象額も減り、軽減される税額も少なくなります。さらに、住宅ローン控除は、借入期間が10年以上あることが条件。繰り上げ返済をすることで返済の残りの期間が10年よりも短くなってしまうと、控除そのものの対象外になってしまうので注意が必要です。

【繰り上げ返済によるデメリット その3 】 金利上昇局面では返済額アップも

金利の変動がない固定金利で繰り上げ返済をする場合はメリットが受けられるのですが、注意したいのは変動金利で組んでいる人です。変動金利といっても、急に金利が上昇したときでも一定期間は返済額に影響しないように設定されているのが一般的。金利が上昇したときのタイミングで繰り上げ返済を行えば、本来、低く設定されていたはずの金利より高い金利が適応されます。繰り上げ返済をした時点の金利でその後の返済額を再計算することになるので、たとえ繰り上げ返済により元金が減ったとしても、月々の返済額が高くなってしまう可能性があるのです。

【繰り上げ返済によるデメリット その4 】 手元の資金が少なくなる

もともと無理のない範囲で返済できるように計画されて組まれたのが住宅ローンなのですが、少しでも早く返済を終えてしまいたいという一心で、繰り上げ返済を頑張りすぎてしまうと、その分、手元に残る資金が少なくなってしまいます。たとえば、繰り上げ返済をした直後にケガや病気になったり、収入が減ることになってしまったり、あるいは介護や教育で資金が必要になったり……。人生には想定外の出来事が起こる可能性はたくさんあります。トラブルが起こる可能性も考えて、ある程度は手元に現金を残しておくなど、無理は禁物ですね。

繰り上げ返済を開始するタイミングは?

繰り上げ返済は早い方が効果的だが、住宅ローン控除を受けきった後がおすすめ

繰り上げ返済にはメリットがある一方、やり方によってはデメリットになることも分かりました。実は、繰り上げ返済はタイミングがとても重要。いつ開始するかによって借り入れ残金の減額や期間の短縮がどれだけできるかが決まります。ここでは、繰り上げ返済をすべきタイミングについて詳しくご紹介していきましょう。

繰り上げ返済は早い方が効果的!

「繰り上げ返済によるメリット その1」の部分でも少し触れましたが、繰り上げ返済は早い方が効果が出やすいものです。支払い利息の総額をできるだけ減らしたいのであれば、住宅ローンを組んだ後、なるべくはやい時期に繰り上げ返済を検討してみましょう。

例として、借入額3000万円、100万円の繰り上げ返済をする場合の利息軽減額効果についてみてみましょう。

※金利1%(全期間固定)、返済期間35年で試算

①繰り上げ返済なし総額:3556万7998円

②1年後に100万円繰り上げ返済総額
3337万1751(2年目以降総額)+101万6220(1年間総額)=3438万7971(①との差額118万27円)100万円-差額118万27=18万27円

③3年後に100万円繰り上げ返済 総額
3135万410(4年目以降総額)+304万8660(3年間総額)=3439万9070(①との差額116万8928円)100万円-差額=16万8928円

④10年後に100万円繰り上げ返済 総額
2427万5197(11年目以降総額)+1016万2200(10年間総額)=3443万7397(①との差額113万601円)100万円-差額113万601=13万601円

低金利の場合は住宅ローン控除の方がお得

住宅ローンを組んでいる人にとっては最大限に活用したい住宅ローン控除。住宅ローン控除は借り入れ後10年間という期間限定で利用できる制度です。年末残高に応じて税の軽減を受けられ、ローン残高が多い人の方が軽減される税額が多くなります。つまり、住宅ローンの控除期間が終わってから繰り上げ返済をするほうが有利になる場合もあるというわけです。

低金利の場合は繰り上げ返済のメリットが少なくなります。住宅ローンに詳しい清水さんにお話を聞いてみると……

住宅ローン控除期間が残っている状況で繰り上げ返済(元金を減らす行為)は無意味かと思います。住宅ローン控除は4000万円もしくは2000万円上限なので、この金額以上組んでいれば良いと思いますが、元金を4000万以下、2000万以下にする必要はないでしょう。この低金利時代、掛かっている金利よりも還付される額の方が多いので、繰り上げ返済のベストタイミングは住宅ローン控除後ですね。

年末よりも年明けのほうがお得になることが多い

繰り上げ返済のタイミングとしてもうひとつ重要なポイントが、一年のうちでいつ開始するかということ。住宅ローン控除を受けている人にとって、年末よりも、翌年の1月に繰り上げ返済を実行するほうが得をする可能性が高くなります。というのも、住宅ローン控除は、年末の時点での残高によって控除対象額が決まるためです。

さらに、年末調整にも注意が必要。給与所得者の場合、会社の年末調整に反映してもらう必要がありますが、もし間に合わなかった場合は、年末調整のやり直しとなってしまい会社に迷惑をかけてしまうことになります。

こまめに繰り上げ返済をした方が軽減効果が高い?

早い時期からこまめに繰り上げ返済をすることで、利息を多く減らすことが可能になります。清水さんに詳しくお話を聞いてみると……

住宅ローンは期間が長ければ長いほど、負担する利子が大きくなりますので、早い時期からこまめに繰り上げ返済をすることで、利息を多く減らすことが可能になります。ただし、私は、タイミングとしては住宅ローン控除を受けきった以降の方が良いと思います。

とのこと。低金利が続いているうちは、住宅ローン控除のメリットを十分に享受した後のほうがよさそうですね。

返済方法は2パターン

総返済額を減らしたい、返済期間を短縮したい人には期間短縮型

毎回の返済金額を変えずに、残りの返済期間を短縮する繰り上げ返済の方法を「期間短縮型」といいます。繰り上げ返済には、次にご紹介する「返済額軽減型」と合わせて2種類の返済方法がありますが、一般的には返済期間を短くする「期間短縮型」の繰り上げ返済を利用する人が多いといわれています。

はやく完済したい人に向いているのがこの「期間短縮型」。たとえば住宅ローンの完済予定が70歳台など、定年退職以降になっている人は、ぜひ期間短縮型の繰り上げ返済を利用して、現役中の完済をめざしたいところです。定年前に完済すれば老後資金の準備もスムーズに進み、安心感が得られますね。

繰り上げ返済は住宅ローンの金利が高いほどメリットが大きいもの。「期間短縮型」では、毎回支払う返済金額は変わりませんが、返済期間が短くなることで、そのぶん支払うはずだった利息が軽減されます。

たとえば、借入額3000万円、金利1%、35年で返済するローンの場合、5年後に100万円繰り上げ返済する場合で考えてみると、

・利息軽減額:32万3608円
・期間短縮月数:15か月
・毎月返済額:変化なし
・総返済額:3429万8025円

となります。

月々の返済額を減らしたい人は返済額軽減型

毎回の返済金額を変えずに、残りの返済期間を短縮するのが「期間短縮型」でしたが、「返済額軽減型」は、逆に、残りの返済期間を変えずに毎回の返済金額を少なくする返済方法。毎回の支払い額を抑えたい人に向いています。

転職で収入が減ったときや、出産や子どもの進学などでまとまったお金が必要になるといったライフステージでは、毎回の返済額を減らして家計を安定させたいもの。想定外のトラブルに備えることができ、経済的な負担は軽くなります。

期間短縮型と比べると利息軽減効果は少ないですが、金利の変動へのリスクを抑えるという点ではメリットも。金利変動タイプのローンでは、金利が上がると毎回の返済額が増えてしまうこともありますが、返済額軽減型の繰り上げ返済を行うことで、金利が高くなる前と同じ設定で返済を続けることが可能になります。結果的に支出をおさえることができるのでメリットは大きく感じられるでしょう。

住宅ローンの繰り上げ返済を検討するときの注意点。しない方が良い場合は?

まとまった現金は繰り上げ返済以外の使い道も。総合的にみて判断しよう

これまで二つのタイプの繰り上げ返済パターンと、それぞれのメリット・デメリットをご紹介してきましたが、場合によっては繰り上げ返済をしない方がいいこともあります。最後に、繰り上げ返済を実行するうえで注意すべきことについてまとめてご紹介します。

まとまった現金を払うため、予備費の確保も必要

繰り上げ返済を行うことで、住宅ローンの返済期間を短くしたり、返済額を少なくしたり、そして利息の負担を軽減する効果が期待できます。とはいえ、家計では住宅ローンの返済以外にもさまざまなお金がかかります。災害や病気やケガ、転職や出産による収入減など、人生にトラブルはつきもの。子どもが自立して教育費がかからなくなったなど、余力のある人は繰り上げ返済をしてもいいのですが、はやく完済してしまいたいという思いだけで、無理をすると、いざというときに手元資金がなく慌ててしまうことに。繰り上げ返済は、予備費を確保したうえで進めましょう。繰り上げ返済貧乏にならないように注意したいですね。

住宅ローンより他のローンの方が金利が高いことも

カードローンや車のローンなど、住宅ローンのほかにもローンを組んでいるという人もいるでしょう。実は、カードローンや車のローンは一般的に、住宅ローンよりも高めの金利が設定されています。金利だけでなく、繰り上げ返済をするときにかかる手数料も、住宅ローンより高額なこともありますが、手数料を払ってでも繰り上げ返済する方がお得な可能性はありそうです。

借入をしていれば、そちらのローンの繰り上げ返済を優先するのもひとつの方法。カードローンやマイカーローンなどは、一般的に住宅ローンよりも金利水準が高め。返済手数料も住宅ローンより高額なことはありますが、借入していることで負担する利息がどれくらいかを計算してみると、手数料を払っても繰り上げ返済してしまうのが有利になる可能性もあります。

変動金利の場合、時期によっては返済額が増えることも

金利が変動するため、基準金利が上がった場合には、返済額が増えてしまうことがあるので、注意が必要です。

繰り上げ返済より借り換えのほうがいい場合とは?

繰り上げ返済より借り換えのほうがいいのはどんな場合でしょうか?清水さんに聞いてみました。

たとえば、借入金額が1000万円以上、残存期間が10年以上、借換金利差が0.5%以上(借換後に金利が0.5%以上下がる)のいずれかが当てはまる場合は、繰り上げ返済を検討してもいいでしょう。逆に、これらに当てはまらない人は繰り上げ返済借り換えのほうがいい場合もあります 。

貯蓄がなく、ライフプランをしっかり計画していない方は破産する恐れがあるので、ある程度余裕がある方が繰り上げ返済をした方がいいと思います。

住宅ローンの借り換えについてさらに詳しく

住宅ローンの借り換えについて、以下の記事で詳しく解説していますので、気になった方はチェックしてみましょう。

住宅ローンの借り換えるタイミング、メリット・デメリットを解説

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