乗組員の重症化察知にアプリが活躍 死者ゼロ 長崎・コロナ客船感染の裏側 山藤長崎大助教、富士通が共同開発

共同開発したアプリで重症化の早期察知につなげ「今後は介護施設での活用も検討している」と話す山藤氏=県庁

 長崎港停泊中に新型コロナウイルスの集団感染が発生したクルーズ船コスタ・アトランチカ。乗組員の健康管理に、長崎大熱帯医学研究所助教の山藤栄一郎氏(40)と富士通が共同開発したアプリが活用された。遠隔で乗組員の状態を把握して関係者が情報共有し、重症化リスクの早期察知にも役立った。山藤氏は今後、介護現場でのアプリ活用などを検討している。
 600人以上の全乗組員を対象に、スマートフォンでQRコードを読み込んでもらった。身長や体重、基礎疾患があるかどうか、喫煙歴などの入力に加えて、毎日午前に体温、せき、吐き気、頭痛の有無などの報告を求めた。
 日々のデータを、厚生労働省クラスター対策班の一員でもある山藤氏がチェック。健康状態を詳細に把握し、発熱チェックだけでは見つけられなかった肺炎の徴候の発見につながった。
 また基礎疾患や喫煙歴、肥満かどうかなど身体的特徴のデータを把握していたことで、重症化の可能性を予測。症状が悪化した乗組員を船外の病院に救急搬送すべきか、船内で治療可能かの判断材料となった。
 アプリでの健康管理は、2月に集団感染が発生したダイヤモンド・プリンセスの事例が教訓となった。横浜に停泊中だった同船では712人が感染し、13人が死亡。船内に入った医療従事者の感染も確認されるなど、閉鎖空間での防疫の難しさが浮き彫りとなった。
 4月のコスタ・アトランチカの集団感染。船医1人で乗組員の健康状態を確認するのは不可能。かといって、別の医者が船の中に入るのは感染の危険性が高い。乗組員を下船させても治療する場所がない―。突然の緊急事態に、「長崎の医療体制が崩壊しかねない」と、山藤氏は同様のアプリを以前共同で手掛けた富士通に連絡、健康観察の仕組みづくりを依頼した。
 アプリを使って船外から健康状態を把握、医療従事者が情報共有したことで、乗組員の円滑な健康管理、感染者の重症化の早期発見につながった。同船で感染が確認された149人のうち、死亡者はゼロ。山藤氏は「関係者の連携で2次感染もなく、よく抑えることができた」と指摘する。
 全国的に新型コロナの感染の大きな波は一定収束したが、第2波への警戒感は強い。感染が介護施設や医療機関に広がれば、県内の医療はたちまち逼迫(ひっぱく)し、医療崩壊を起こす恐れがある。山藤氏は今後、重症化しやすいとされる高齢者が多い介護施設でアプリを活用できないか検討中で「施設の不安は大きいはず。準備を整え、導入を進めていきたい」としている。

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