なべやかん遺産|「半魚人」 芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「半魚人」!

絶対王者クラスのキャラ

ここ数年、ハリウッド映画に登場するヴィラン(敵)がどうも気に入らない。マーベルもDCもそうだが、かっこいいヴィランが誕生していない。ホラー映画も同様で、ホラー界のスーパースターが誕生していない気がする。ちょっとしたスタークラスはいるが、ボクサーでいうところのマイク・タイソンのようなキャラがいないのだ。

新型コロナウィルスで“おうち時間”が続いていると新作映画も観られないので昔の映画を観たり、部屋の整理をして昔買った本や懐かしい写真を発見して「これは何かに使えるぞ!」と新たなヒントが生まれている。

過去の写真や資料や映像作品を見ていると「やっぱり昔の作品には絶対王者クラスのキャラが登場するな」と独り言も飛び出す始末。年を取ると独り言が多くなると言うが、おうち時間中の片付け中の独り言率はかなり高かったので、自分が年を取った証拠かもしれない。

部屋の中から再発掘される過去の資料や写真。思い出の写真の束を見ている時、2003年に行ったアメリカ旅行の写真が出て来た。この旅での一番の思い出は、絶対王者クラスのキャラに出会った事だ。そのキャラが登場したのは古い作品なのだけど古さを一切感じさせないから凄い。だからこそ絶対王者クラス。

今回はそのキャラの話をしよう。僕が大・大・大好きなキャラ、半魚人・ギルマンが今回の主役だ。

オリジナルのギルマン。当時作られたギルマンを型取りし複製した物なのでとても貴重だ。

デザインが良いだけでは後世には残らない

『大アマゾンの半魚人』(1954)に登場したギルマン。すらっとした細身の長身で手足が長い。高身長、細身、手足長、この三要素が異星人や異生物のかっこ良さを際立たせるのだろう。

『エイリアン』(1979)に登場したビッグチャップ(最初のエイリアンの事)もこの三要素を持っているので絶対王者クラスのキャラになったのだと思う。

キャラクターを作る時「スーツアクターは誰でも構わない」ではなく、プロポーションに拘った人材選びが大切なのだと思っている。スーツアクターがスタイル抜群だとキャラクターにも反映されるという事になる。

この美しいギルマンのデザインはミリセント・パトリックさんという女性だった。ミリセントさんは優秀で『宇宙水爆戦』(1955)のメタルナミュータントのデザインもしている。メタルナミュータントもギルマン同様に大好きなキャラクターなので、この女性の創造力の素晴らしさに感服し尊敬してしまう。

デザインが良いだけでは後世に残るキャラクターにはならない。やはり造形物を作る人間の技量も大切だ。1954年、55年という、今からしたら遥か大昔だけれども造形力があるセンスの良い人がいたからこそ素晴らしいスーツを作り上げる事ができたのだ。

そして、それを際立たせるスタイル抜群のスーツアクター。これらも揃えば絶対王者が誕生する。

ギルマンの手。これはオリジナルかどうか不明。オリジナルであってほしいな。

アメリカのホラー関連イベント「チラー祭」

過去の映画のキャラでもビデオやレーザーディスク、最近ではDVDやBlu-rayで会う事ができる。『大アマゾンの半魚人』を最初に観たのは、画質の悪いダビング映像のビデオだった。

悪い画像で観ても半魚人のかっこよさは伝わり、ハリウッド映画は凄い、やっぱり映画はハリウッドだ、そんな憧れを抱いていた。

そんな憧れが強くなり、ついにアメリカに行く。それが2003年のチラー祭というホラー関連イベントだった。
会場はニューヨークのお隣のニューアーク州にあるホテル。

ホテル全体を使っていたので、ホラー映画、モンスター映画、SF映画などの撮影用プロップが様々な部屋に展示されていたり、キャラクターグッズが販売されているスペースがあったり、そういった映画やテレビドラマに出演した役者さん達のサイン会があったりしてとても賑やかなイベントだった。

学校での英語の授業はオール1、英語は駄目駄目の自分だったが海外イベント初参加という事と目の前は好きな物だらけなのでテンションが上がりまくって言葉の壁など気にせずガンガン色んな所を見て回り、雰囲気で色んな人に話し掛けたりしていた。と言っても、殆どジェスチャーでの会話。

ホテルを借り切ったイベントだったので、フロアーごとに展示物や販売品が違い、それがまた楽しい。部屋も細かく分かれていて次々と新しい発見がある。

映画『死霊のはらわた』の撮影用プロップ展示部屋には、わりと長い時間いたような気がする。撮影で使われた『死者の書』も見られたし、これだけでもアメリカに来たかいがあると思った。

ギルマンのスーツアクターに遭遇!

その後もフラフラとあちこちの部屋を覗いていると、わりと良いサイズの部屋があり、そこは半魚人ルームで等身大ギルマン像が置かれていて、その前にスーツアクターを務めたベン・チャップマンさんとヒロイン役のジュリー・アダムスさんがいた。これには超大興奮。

ベン・チャップマンさんの胴回りは当時のギルマンとは程遠かったが、腕や足の感じはギルマンそのもの。じっとベン・チャップマンさんを見ているとギルマンの姿が見えてくる。

お二人は記念写真とサイン会をやっていた。これは絶対にサインを頂かないといけない。そう思った自分は部屋を出て物販ルームに移動しギルマングッズを探した。

色んなグッズが売っていたが、その中で自分が選んだのはギルマンの手踊り人形だ。なぜそれを選んだかというと、怪獣玩具業界でなべやかんは手踊り人形コレクターというのがわりと有名だからだ。
サインを頂くなら手踊り人形が良いと思ったのだ。

ベン・チャップマンさんに近付くと、大きな人だった。この人がギルマンなのかと思うと感激し実際に会えたことが本当に嬉しく感じた。

お二人にサインを頂き、記念撮影。写真を見て改めて感じるのは、後ろにいるギルマンとベン・チャップマンさんの顔が似ている事。そこも含めて素晴らしいと感じる。

ギルマン手踊り。ベン・チャップマンさんとジュリー・アダムスさんのサイン入り。
ベン・チャップマンさんとジュリー・アダムスさんに挟まれ少し緊張気味。ベンさんの腕と手がギルマンそのもの。
こちらは笑顔。やっぱり顔がギルマンだ。

密かな夢

ギルマンがかっこいいのは、先程も触れたがスタイルの良さもある。

これは初代ウルトラマンに匹敵するプロポーションの良さだ。初代ウルトラマンのプロポーションはデザイナーの成田亨さんの拘りだった。ウルトラQでケムール人とラゴンのスーツアクターを務めた古谷敏さんがウルトラマンの中に入った。

手足が長くスラっとしたスタイル。古谷さんには何度もお会いしているが、その度、密かに思っているのがラゴンやケムール人の着ぐるみにもう一度入ってもらいたい、だけどギルマンにも挑戦してもらいたい、という事だ。

和の半魚人であるラゴンに入った古谷さんがアメリカのイベントか東京コミコンでギルマンに入って登場するっていうのも面白いような気がする。古谷さんはウルトラマン当時とほぼ体系が変わらないので、ギルマンに入ってもかっこいいはず。これは間違いなくファンの間では世界的ニュースになる。

でもこれは、ギルマンのスーツがあればのお話。アメリカに行けばファンメイドのギルマンスーツがあると思うのだよ。それを借りてイベントで古谷さんに着てもらう。これだけでアメリカのイベントも大成功する。

長い長いおうち時間、チラー祭の写真を見ながら楽しい妄想をしていたら、片付けの手が止まっている自分を見て奥さんが激怒した。現実に戻され片付け作業を再開。

「コロナが落ち着き海外にも行けるようになり自分の仕事も戻って来てお金を稼げるようになったらギルマンコレクションを増やそう」

またまた独り言を繰り返す、なべやかんであった。

なべやかん

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