外出制限解除のフランスで高まる「地方の庭付き一戸建て」ニーズ

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2ヵ月にわたる外出制限が解除されたフランスは、この経験をもとに今後どのような社会を目指すのでしょうか。エコノミーとエコロジー、どちらを優先するべきなのか?効率的な社会と公平な社会は?世の中はより良い方向に変わることができるのか?さまざまな問いが人々の関心にのぼり、仏メディアでも盛んに取り上げられています。

これらの話題から、確実に変わると見られている価値観をいくつか取り上げたいと思います。


フランスでも進むリモートワーク

まず1つ目は、リモートワークの導入による、働き方の変化です。企業にとっても社員にとっても、外出制限を余儀なくされ導入することになったリモートワークでしたが、意外にも双方にとって有益であることがわかりました。

企業側が心配した社員の処理能力の低下は見られず、社員たちは通勤時間を省ける、オフィスから離れた場所に暮らしても仕事を続けられる、個人的な都合に合わせて勤務時間を調整できる、などのメリットを実感することになったのです。

リモートワークを導入することで、企業としてはデスクを確保したり通信環境を整えたり、またそれらを維持したりといった、投資(コスト)を大幅に削減することも可能になります。

パリ市内の住宅とバルコニー

整った仕事環境で働くことができない、同僚と意見交換ができない、などのデメリットも当然ありますが、「それらを踏まえつつ、企業はリモートワークの利点を取り入れることになる。同時に、新たなオフィスのあり方が考え直される」と、オフィス専門不動産サービス企業であるBNPパリバ・レエル・エステイトのコーポレートサービス責任者のシルバン・オス氏は見解を示しています。

通勤は週数回だけで基本はリモートワーク、というライフスタイルが、すぐにも定着するかもしれません。

住空間に求める条件1位は「屋外スペース」

リモートワークが可能になることで、人々の暮らしも変化します。外出制限の経験から、「住空間に屋外スペースは不可欠だ」と考えるフランス人が増え、早くも不動産業界にこの動きが見え始めました。

5月17日発売のJDD紙に掲載された不動産会社Nexityのアラン・ディナン社長のインタビューには、外出制限解除の日取りが発表された4月中旬の時点で問い合わせ件数は通常レベルにまで回復したことや、地方都市の庭付き一戸建てのニーズが増えていることなどが挙げられています。

BNPパリバ・レエル・エステイトが依頼し、調査会社ifopが実施した4月13日の調査では、住空間に求める条件の第1位に「屋外スペース」があがっています。実に81%のフランス人が、庭やテラス、バルコニーなどの屋外スペースが最も重要と答えました。第2位の「家族全員に個室があること(22%)」や、第3位の「より広いリビング(21%)」を、大きく引き離していることも興味深いです。

住空間に求める条件のアンケート

「パリ市内のアパートに暮らして、田舎にセカンドハウスを持つ」という、長年理想とされてきたパリジャンのライフスタイルも、ここへ来て変化の兆しが現れました。実際、外出制限をセカンドハウスで過ごしたパリジャンなどは、リモートワークで仕事をしながら広々とした一軒家に暮らす生活を2ヵ月間送ったわけですから、今一度立ち止まって、自分自身が本当に理想とする暮らしを考え直したとしても不思議ではありません。

また、シャルトル、ルーアン、ランスなどといった地方都市の庭付き一戸建てニーズの盛り上がりからは、外出制限を経験した現代人が、より人間的な規模の暮らしやすい街で生活したいと望んでいることがわかります。

過密都市はだんだんと不人気になる、と見る専門家が多数を占める中、Apur(パリ市都市開発アトリエ)責任者のドミニク・アルバ氏は「多くの人々がパリに住むことを夢見ている。引っ越しで空いた住まいには、すぐに新しい住人が入居するだろう」と述べています。

いずれにせよ、たとえフランス人の都市離れが進んだとしても、パリやリヨン、ボルドーなど、過密都市の不動産価格は暴落しないというのが専門家の一致した意見です。矛盾のように思えますが、これまであまりにも供給不足だった過去が原因していることを、前出のアラン・ディナン氏は指摘しています。

地産地消や流通の広がり

次に、ローカルプロダクトの支持が挙げられます。新型コロナウイルスによって露呈した、「フランスにはマスクの工場もなければ、薬の工場もない」という事実は、フランス国民を動揺させることになりました。

コストを優先し、生産場所をインドや中国に移したのは間違いだったとする考えが多くの世論を占める中、食品や衣類といった個人の選択が日常的に行われている分野にもこの考えが反映されています。

ウェブメディアのダーウィンニュートリシオンが依頼し、ifopが実施した調査によると、「5月11日の外出制限解除後に変化すると思われる食習慣は?」の問いに、「環境インパクトを考慮した食生活」を「以前より実行する」と29%が回答。「以前より実行しない」と答えた5%を大きく上まわりました。

外出制限後に変化すると思われる食習慣アンケート

環境インパクトを考える食生活とは、すなわち地産地消や短縮流通の商品を選ぶということです。これを進展させた場合、近郊で育った季節の野菜を食べ、メイドインフランスのシャツを着、余暇は自然の中をハイキングする、というライフスタイルをイメージすることは難しくありません。

「リモートワークにしても、責任ある消費行動にしても、これらは外出制限以前の社会に存在した考えだ」と、JDD紙記者のベルトラン・グレコ氏は指摘します。ここ数年定着したフリーアドレスオープンスペースの導入以降、さらに一歩進んだリモートワークという新しい働き方が望まれてはいましたが、企業側は社員の能力低下を懸念し踏み切ることができずにいました。

外出制限緩和後初の週末の様子(パリ東部ヴァンセンヌの森)

しかし実際にはそうではないことが今回証明され、同時に、オープンスペースは安全距離の確保が難しく、フリーアドレスは移動のたびにデスク周りの全てを消毒しなければならないという、コロナ禍後の社会にとって最大のデメリットが浮上したのです。

「環境コンシャスな社会も、不平等のない社会、人が人に優しい社会も、全てコロナ禍以前に人々が描いていた理想。外出制限解除後の社会は、これらの理想をより強く優先する社会になるのでは」と、グレコ氏は続けました。

働き方が変わり、暮らし方も変わり、消費傾向も変わるなら、総じて社会が変わることになるかもしれません。第一段階として今、明らかである上記の変化は、空間と時間の価値をもう一度再評価し直すフランスの人々の価値観を浮き彫りにしています。

Keiko Sumio-Leblanc / 加藤亨延