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イギリス出身のランビール・ダワン(仮名、裁判当時39歳)は平成18年に来日し永住資格を取得して以降、ずっと日本で暮らしていました。
彼は平成26年から都内のホテルで働いて生計を立てています。宴会の準備やサーブだけでなく、時には通訳のような仕事もしていたという彼は重宝される人材でした。彼にとっては職場である、このホテルが犯行現場となりました。
被害者はアルバイトとして働いていた男性です。被害者はまだ学生で、バイトを始めたばかりの新人でした。
事件が起きたのは宴会終了後、従業員たち6名が片付けや次の日のための準備をしていた時のことです。
その時、被害者は普段通りに働いていただけでした。しかし突然、お尻のあたりに「今までに経験したことのない痛み」を感じて思わず、
「痛い!」
と叫んで後ろを振り向きました。
そこに立っていたのはスチームアイロンを手にした被告人でした。被害者によると彼は「爆笑」していました。彼だけではありません。その場にいた他の従業員4名もゲラゲラ笑っていました。笑っていた4名のうちの1人は、
「被害者が『痛い!』と声を挙げた時、みんなが笑ってたから一緒に笑った」
と供述しています。
「俺もやられたことあるんだよ」
と被告人は笑顔で被害者に話しかけました。他のみんなも笑っていました。突然スチームアイロンを押し当てられ、尋常ではない痛みを感じながらも被害者は「空気」を読みました。その場では事を荒立てずなんでもない風を装い笑顔で被告人に応対しました。
被害者が帰宅後、痛む箇所を確認すると皮膚が焼けただれていました。痛すぎてまともに座ることもできません。すぐ病院に行くと「全治2週間の火傷」と診断されました。治った後も傷痕は消えないそうです。
「こんな暴力を受けるいわれはない」
被害者は警察に相談し、事件が明るみに出ました。
「ふざけてただけ。わざとじゃない」
「遊びがここまでになってしまって申し訳ないと思ってるけれど悪気はなかった」
と言い訳を繰り返す彼に対して検察官は鋭く糾弾していました。
――仕事でスチームアイロンを使ってたということですが、どんな時に使ってたんですか?
「シワをのばしたりする時です」
――あなたは自分の顔にスチームアイロンを押し当てることはできますか?
「できません」
――何故できないんですか?
「火傷してしまうからです」
――人にアイロンを当てたら火傷するってわかるんですね?
「…はい」
――そんなことして、何が面白かったんですか?
「……」
――答えない、ということでいいですか?
「ごめんなさい」
――被害者に書いた謝罪文の中では『冗談だったことを理解してほしい』、『わざとじゃないことを理解してほしい』、などと書いてますが被害者の火傷を気遣うような言葉がまったくないのは何故ですか?
「直接会って言おうと思ってました」
――被害者がどんな気持ちかわかりますか?
「……」
――証拠として提出されてる被害者の調書って読みました?
「…読んでません」
――読まないで今日ここに来たんですか?
「…はい」
――被害者の状況を知ろうと思えば知ることはできるはずです。謝罪はもちろんですが、被害者がどんな被害を受けてどんな気持ちになったか、今後知るつもりはありますか?
「はい」
――弁償金はいくら払うつもりですか?
「10万円くらい…でも子供もいますしコロナで仕事も減ってしまって、生活が大変で…」
「悪気はなかった」は人を傷つけていい理由にはなりえません。これは傷害事件以外の何物でもないのです。
犯行時、「爆笑していた」という周りの人間も、刑事罰に問われることはなくとも被告人と同罪です。
事件化することは稀なケースだとしても、同じような出来事は学校や職場、その他にも多くの場所で起きています。
誰かが苦しんでいる姿を見て「爆笑」した経験を持つ方は今一度自分に問いかけてみてください。
そんなことをして、何が面白かったんですか?(取材・文◎鈴木孔明)