目は口ほどに

 困ったように眉をひそめたり、不安そうに口をとがらせたり、ぐっと目に力を込めたり-隣の記者会見が原稿やメモの退屈な棒読みでも、手話通訳者の皆さんはとても表情豊かに“話す”。会見の発言はそっちのけで思わず見とれてしまうことがあるほど▲人類が「表情」によるコミュニケーションを獲得したのは、音声や言語による伝達よりもおそらくずっと昔のことだ。だから、英語がからっきしでも、外国人が喜んだり怒ったりしているのが分かるし、赤ちゃんも笑う▲顔の下半分をマスクで覆って、日常を取り戻す歩みが少しずつ始まった。先日、県のある会議に出席し、幾人かの方とご挨拶を交わしたが、顔を覚えた手応えも覚えてもらった自信も極めて薄い。当分はこれに慣れるしかない▲「目は口ほどに…」とは言うけれど、限界はありそうだ。空気で理解してもらう-そんな文化は少しずつ変わるかもしれない。これもウイルスの副産物か▲やがて再開されるドラマの収録は変化と無縁でいられるだろうか。舞台が戦国時代ならまだしも、現代劇は▲「倍返し」の銀行マンも「警視庁特命係」の2人組も、追い詰められる犯人も銀行の上司も外出時はマスクを忘れずに。でも、それが令和のリアルだよねえ…と、とても切実度の低い心配をしている。(智)

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