スティーヴィー・ニックスこそロックの歌姫、妖精でも小悪魔でもないッ! 1981年 7月27日 スティーヴィー・ニックスのアルバム『麗しのベラ・ドンナ』がリリースされた日

“ロックの殿堂” に2度選ばれた女性シンガー、スティーヴィー・ニックス

2018年12月13日、スティーヴィー・ニックスがソロアーティストとしてロックの殿堂入りすることが発表された。彼女は、1998年にもフリートウッド・マックのメンバーとして殿堂入りしているから、これで2回目である。女性アーティストでこの栄誉を2度も授かったのは、彼女が初めてだ。

スティーヴィーは、米国の音楽誌『ローリングストーン』の「100 Greatest Singers of All Time」で98位(女性では23位)に選ばれているほか、ユニバーサルミュージックが運営する音楽サイト『uDiscoverMusic』では「Best Female Rock Singers」の3位になっている。要するに、彼女はロックの歴史に確実に名が残るシンガーの一人ということだ。

恋多き女、スティーヴィーと浮名を流した有名人は?

だが、彼女の “永遠の妖精” と呼ばれた少女趣味的で乙女チックなビジュアル、妖艶な雰囲気、ドスの効いたハスキーな低音ボイスというミスマッチとも思える組合せは、必ずしも日本の音楽ファンには受けなかったような気がする。それに加えて、彼女には常に “恋多き女” というイメージが付きまとっていた。

スティーヴィーは、高校時代に出会った恋人のリンジー・バッキンガムとデュオとして活動した後に、2人揃ってフリートウッド・マックに加入した。まさに公私混同な仲だったが、皮肉なことにバンドの成功が彼らの関係に影を落とすことになる。やがて関係を解消した2人は次第に反目するようになり、リンジーがフリートウッド・マックを脱退した時には殴り合いの喧嘩をしたと言う。

その間にも、彼女は数多くの有名人と浮名を流した。米国のデジタルメディア『Ranker』は、過去にスティーヴィーと恋仲にあったとして、フリートウッド・マックのリーダーのミック・フリートウッド、イーグルスのドン・ヘンリーとジョー・ウォルシュ、ソロシンガーの J.D.サウザー、ギタリストのワディ・ワクテル、ユーリズミックスのデイブ・スチュワート、ティナ・ターナーやハワード・ジョーンズのプロデューサーとして知られるルパート・ハイン、更には前カリフォルニア州知事のジェリー・ブラウンといった名前を挙げている。

フリートウッド・マックを世界的なバンドに押し上げてソロデビュー

もちろん、こんなのはただの噂に過ぎないかもしれないし、“色物” 的なイメージを持たれているからと言って、彼女の偉大な業績が色褪せることなど決してない。

フリートウッド・マックは、リンジーとスティーヴィーが加わるまでは、世界的なバンドでもなんでもなかった。それが、75年に2人が加入すると、その途端にアルバム『ファンタスティック・マック(Fleetwood Mac)』が全米アルバムチャートで初のNo.1を獲得。続いてリリースされた『噂(Rumours)』は、なんと31週に渡って1位の座に留まり、この年のグラミー賞でイーグルスの歴史的名盤『ホテル・カリフォルニア』を破って最優秀アルバム(Album of the Year)に選ばれた。

80年代の作品の中で僕が皆さんにオススメするとしたら、スティーヴィー自身初のソロアルバム『麗しのベラ・ドンナ(Bella Donna)』だ。当然のようにNo.1を獲得したこの作品からは、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズと共演した「嘆きの天使(Stop Draggin' My Heart Around)」、ドン・ヘンリーと共演した「レザー・アンド・レース」の2曲のトップ10ヒットが生まれている。

中でも、僕が聴いて欲しいのは、第3弾シングルの「エッジ・オブ・セヴンティーン」だ。残念ながらトップ10に入らなかったので記憶にない人がいるかもしれないが、米国の音楽サイト『Ultimate Classic Rock』はこの曲を「Top 10 Stevie Nicks Songs」の第1位に選んでいる。2019年3月のロックの殿堂のセレモニーでも演奏された。

ロックファンのスタンダード「エッジ・オブ・セヴンティーン」

この「エッジ・オブ・セヴンティーン」を初めて聴いたという人がいるなら、ワディ・ワクテルが弾くギターの16分文音符の単音のリフで、次の2つの全米No.1ヒットのどちらか(または両方)を連想したのではないだろうか。

1つめは、82年に公開された映画『ロッキー3』の主題歌、サバイバー「アイ・オブ・ザ・タイガー」だ。キーこそ異なってはいるものの、イントロが「エッジ・オブ・セヴンティーン」とそっくりである。もしどちらかがパクったのだとしたら、後にリリースしたサバイバーの方だろう。

2つめは、デスティニーズ・チャイルドの「ブーティリシャス」だ。この曲では、実際に「エッジ・オブ・セヴンティーン」のリフがサンプリングされている。スティーヴィー本人もビデオクリップに登場するので、ぜひ見つけて欲しい。

さらに言えば、2003年公開の映画『スクール・オブ・ロック』も思い出される。主演のジャック・ブラックがバーのジュークボックスでこの曲を流すと、堅物の校長役のジョーン・キューザックが身体を揺らしながら歌い始める… というシーンだ。これ一つを取っても、この曲が世界のロックファンの間でスタンダードになっていると言ってもいいのではないだろうか。

Song Date
■ Edge Of Seventeen(Just Like The White Winged Dove)/ Stevie Nicks
■ 作詞・作曲:Stevie Nicks
■ プロデュース:Jimmy Iovine
■ 発売:1982年2月5日

Billboard Chart
■ Stop Draggin' My Heart Around / Stevie Nicks With Tom Petty And The Heartbreakers(1981年9月5日 全米3位)
■ Leather And Lace / Stevie Nicks With Don Henley(1982年1月23日 全米6位)
■ Edge Of Seventeen(Just Like The White Winged Dove) / Stevie Nicks(1982年4月17日 全米11位)
■ Eye Of The Tiger / Survivor(1982年7月24日 全米1位)
■ Bootylicious / Destiny's Child(2001年8月4日 全米1位)

Billboard(Album)
■ Fleetwood Mac / Fleetwood Mac(1976年9月4日 全米1位)
■ Rumours / Fleetwood Mac(1977年4月2日 全米1位)
■ Bella Donna / Stevie Nicks(1981年9月5日 全米1位)

カタリベ: 中川肇

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