煙草と悪魔

 長崎市夫婦川町の春徳寺(しゅんとくじ)に続く坂の上り口に「烟草(たばこ)初植地」と刻む古い石碑がある。大正初めにはもう立っていたらしい▲説明板によると、タバコは慶長年間(1596~1615年)に西洋から持ち込まれ、いま春徳寺が立っている場所にあった「トードス・オス・サントス教会」で初めて栽培された。江戸時代には「長崎煙草(たばこ)」と呼ばれ、全国で親しまれた▲この話を芥川龍之介は知っていたのだろう。「煙草と悪魔」という小説を書いている。日本にキリスト教を伝えた宣教師ザビエルと一緒に、修道士に化けた悪魔が来日してタバコの栽培を始め、喫煙の習慣が日本中に広がった、という物語だ▲龍之介はヘビースモーカーだった。たばこをやめたくてもやめにくい「ニコチン依存」という悪魔のような力を実感していたに違いない▲健康を損なうたばこだが、新型コロナウイルスがさらにリスクを高めている。喫煙者は感染すると重症化しやすい。喫煙所・喫煙室は「3密」になりやすい空間でもある。日本禁煙学会は感染防止のために全ての喫煙所・喫煙室を閉鎖するよう呼びかけている▲きょうは世界保健機関(WHO)が定めた世界禁煙デー。ことし4月には受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が全面施行された。いまこそ「卒煙」の好機だ。(潤)

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