東京五輪「中止検討せざるを得ない」組織委顧問の千玄室氏 現状での開催に危機感

延期された東京五輪・パラリンピックへの思いを語る千玄室前家元(京都市上京区)

 新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期された東京五輪・パラリンピックについて、大会組織委員会の顧問を務める茶道裏千家の千玄室前家元(97)が、京都新聞社の取材に応じた。千氏は「来年までに世界各国で収束しないと準備ができない」と話し、現状での五輪開催に危機感を示した。

 延期が発表された3月24日、安倍晋三首相と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、中止はないと確認。一方で、組織委員会の森喜朗会長は、再延期は「絶対ない」との見方を示し、バッハ会長も今月、英BBC放送のインタビューで、来年開催されなかった場合、中止となる見通しを示している。

 千氏は、選手や会場施設の準備が一定期間必要であることを指摘。さらに、延期で施設の維持管理や人件費などの負担が増える一方、各国が新型コロナ対策に膨大な予算を投じている現状を語り、「リーマンショック以上の経済危機の時に五輪をやるのかという批判が出てくると思う。反対の声が大きくなれば、大会の中止を検討せざるを得ない」と持論を語った。

 千玄室前家元は、かつて馬術の選手として前回東京五輪を目指し、東京2020の招致委員としても尽力した。日本オリンピック委員会(JOC)名誉委員も務める。

-延期が発表され、率直な感想は。
 「今度の五輪は昭和39(1964)年に東京で開催されて以来。とにかく誘致が成功して本当に良かった。会場の準備も進み、これからという時だった。(新型コロナウイルスが明るみに出て)当初、これは危ないなと思っていたが、世界中にまん延してしまった。目に見えないウイルスとの戦い。いつ終わるかめどが立っていない。来年までに世界各国で収束しないと準備ができず、五輪の開催が難しいのではないか」

 「会場施設や選手の準備に一定期間必要で、延期のために、施設の維持管理や人件費の負担がかかる。今年中に収束したとしても、今度は経済的な面で影響が出てくる。五輪はスポンサーがあってこそ実現でき、膨大な費用がかかる。しかし今、日本を含む世界各国がコロナ対策で予算を費やしている。これからもそうだろう。リーマンショック以上の経済危機の時に五輪をやるのかという批判が出てくると思う。反対の声が大きくなれば、大会の中止を検討せざるを得ない」

-日本馬術連盟の会長を務めており、競技団体の長としてはどんな思いか。
 「馬術は唯一動物を扱う競技で、我々は費用面など万全の態勢を整えてきた。準備してきた選手には非常に気の毒。選手は馬と一緒に欧州にいて、出国できない。馬場で馬に乗ることも制限されている。他のスポーツでも、世界各国で出場が決まっている選手が来年まで気力を維持できるか」

-五輪についてどう考えるべきか。
 「前回の東京大会を含め、かつてはアマチュアだけが出場できる大会だった。今は商業ベースになっている。こんなスポーツの祭典で本当にいいのか。五輪を見直し、原点に戻らないといけない。もっと素朴に、本当に選手が自分の修練してきたことを発揮させるような場でないといけない。選手は国のためだけでなく、自分のために記録を出したい。それだけ」
 「人の心を、スポーツ界は考えないといけない。一つの五輪哲学を、ここで日本が立てるべきです。延期はちょうどいいチャンス。みなさん考えてほしい」

© 株式会社京都新聞社