野球の形はなぜ「ダイヤモンド」と呼ばれるのか? バッターが一塁へ走る理由は

野球の形はなぜ「ダイヤモンド」と呼ばれるのか?

ダイヤモンドはアメリカで生まれたものではない?

日本では、硬式、軟式野球やソフトボールなどベースボール型競技を総称して「ダイヤモンドスポーツ」と呼ぶことがある。「ダイヤモンド」は、野球の最も重要な「かたち」であるといえよう。ダイヤモンドはどこで誕生したか? それは、野球のルーツの問題に関係している。アメリカの野球史家の多くは「野球はアメリカ発祥のスポーツである」としている。しかし、ダイヤモンドはアメリカで生まれたものではない。

ボールを棒状の道具で打つ遊びは、極めて古くに始まった。古代エジプトの壁画にも残されている。それがゴルフやポロ、ホッケーからテニスなどのスポーツに発展したと考えられる。そうした発展の中、ヨーロッパでボールを棒で打つ「バットアンドボールゲーム」と呼ばれるジャンルが生まれた。

代表的なものが、「野球」と「クリケット」だ。16世紀にイングランドで始まったとされるクリケットは、楕円形の「クリケット場」で行われる。中央に設けられた「ピッチ」と呼ばれる長方形のエリアで、ボウラー(投手)が投げたボールをバッツマン(打者)がバットで打って、ピッチの端にあるウイケット(塁)に達すれば点が入る。ウイケットは2つだ。

これに対し、野球は投手が投げたボールを打者がバットで打つところまでは同じだが、塁は4つだ。4つの塁は正方形のエリアに置かれている。この正方形のエリアをダイヤモンドと呼んでいる。バットアンドボールゲームのなかで、4つの塁を置いてプレーするようになったのは「ラウンダーズ」というゲームが最初だと考えられている。

ラウンダーズは15世紀のイングランドで始まったとされる

ラウンダーズは15世紀のイングランドで始まったとされる。バットでボールを打って、4つの塁を回って帰ってくると点が入るという基本的なルールはその当時から変わらない。ちなみにラウンダーズは、今もアイルランドやイングランドでは学校の授業に取り入れられ、子供に人気のゲームだ。地域によっては、5つの塁を回るラウンダーズもあったようだ。しかしほとんどの地域で4つの塁を回っていた。

これが、移民によってアメリカにもたらされ、野球になったと考えられている。以後、ダイヤモンドのサイズは何度か変更された。

野球のダイヤモンドでは、本塁、一塁、三塁は、ダイヤモンドの角に合わせて置かれている。が、二塁だけが少しずらして、ベースの中心が角に来るように置かれている。これは、野球規則に、野球のダイヤモンドを作るときには、まず本塁を決めて、そこから127フィート3インチ3/8(38.795メートル)先に二塁ベースの中心を置くと決められているからだ。

そして本塁から90度の角度で一塁線、三塁線を引き、二塁ベースの中心から一塁線、三塁線の交点の位置に角を合わせて一塁、三塁ベースを置く。一塁、三塁間も二塁、本塁間と同じ127フィート3インチ3/8(38.795メートル)だ。

なぜダイヤモンドは左回りなのか?(写真はソフトバンク・周東)【写真:荒川祐史】

なぜ、打者は一塁へ走るのか? 「利き足」と関係がある?

「バッターは三塁へ走ってはいかんのか?」

野球経験がなく、途中から経営に参画したあるプロ野球の経営者がこう発言したと言われる。なぜ、野球ではダイヤモンドは時計の反対回り(左回り)なのか? この問題は、過去にも何度も議論されてきたが、結論は出ていない。ただ野球の先祖であるラウンダーズも左回りだった。

今のところ、これは「利き足」と関係があるのではないかと考えられている。「利き足」とは、1.一歩目を踏み出す足、2.ボールを蹴るときに無意識に出る足、3.あぐらをかいたときに外に出る足、だ。調査によれば人間の80%が利き足が「右」だとされる。一歩目を踏み出す足が右である場合、一塁側に走るのが自然だ。このために野球は左回りになったのではないかと考えられている。陸上競技のトラックも左回りだ。左回りの方が記録が良くなるという説もある。

現在使用されている野球のグラウンドのサイズは実に様々だ。両翼や中堅の目安は一応決められているが、その目安と異なる球場も珍しくない。MLBには左右非対称だったり、外野に勾配があったり、外野フェンスが入り組んでいたりする球場もある。

しかし、そんな球場であっても、ダイヤモンドのサイズだけは変わらない。また、毎試合、距離を測り、ベースを正確な位置に置いている。野球にとって「ダイヤモンド」は、それだけ大切なものなのだ。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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