<いまを生きる 長崎コロナ禍> 異国の仲間との再会信じて 一時帰国のJICA隊員 谷口さん

 世界規模で広がる新型コロナウイルス感染症の影響で、発展途上国に派遣されていた国際協力機構(JICA)の海外協力隊員約1800人が一時帰国を余儀なくされた。3月末にアフリカ・モザンビークから帰国した東彼東彼杵町の谷口智亮さん(30)もそんな一人。慌ただしく別れた異国の仲間たちを思いやりながらも「今、ここで、できることを」と奮闘している。
 福岡市出身で、7年前に家族で父の実家がある同町に移り住んだ。自宅床下にミツバチが集まっているのに気づき、趣味で養蜂を開始。本格的に技術を磨こうとJICAボランティアに応募し、2018年10月からモザンビーク南部のイニャンバネ州に派遣された。現地の養蜂農家と協力し、生産性の高い技術の確立に向け試行錯誤していた。

「小さくてもできることをしたい」と語る谷口さん=東彼杵町

 任期を半年以上残した3月下旬、現地事務所から一時帰国を告げられた。新型コロナの影響で全隊員の帰国が決まったという。慌ただしく荷物をまとめ、翌日には帰途に就いた。
 帰国後2週間は自宅で待機。長期化するウイルス禍に「隊員としてモザンビークに戻るのは無理だろう」と半ば諦めた。同時に「目の前のことを頑張ろう」と気持ちを切り替えた。
 最初に取り掛かったのはモザンビークから持ち帰ったカラフルな伝統布「カプラナ」を使ったマスク作りだ。自宅待機中にこつこつと60枚以上作り、知人のコーヒー店に置くとすぐ売り切れた。収益は全て海外のコロナ対策に寄付。マスクの供給が安定してきた現在は同町のそのぎ茶農家で、友人でもある大場譜五さん(31)を手伝っている。

モザンビークの伝統布「カプラナ」で谷口さんが作ったマスク

 JICAデスク長崎によると一時帰国した隊員は県内に24人。派遣や訓練の延期で待機する隊員もいる。JICAはこうした「待機隊員」を、新型コロナの影響で人手不足に悩む企業や農家に紹介している。
 ウイルスという共通の脅威を前に、世界は協調するどころか、むしろ分断を深めた、と谷口さんは思う。帰国する途中、「コロナ」と罵声を浴びたり、警察から20時間近く不当に足止めされたりと、アジア人差別も経験したからだ。
 一方で「さよなら」すら満足に言えなかった仲間への思いも変わらない。最近、派遣先の地域でも新型コロナの感染者が見つかったと聞いた。「こんな時に何もしてあげられないなんて…」と歯がゆさが募る。
 世界中に広がる混乱と分断に、個人の力は無力だ。「小さくても、できることをやろう」と自らに言い聞かす。そんな日々の先に、仲間たちとの再会があると信じている。


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