おわびのような

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 「思い出の小説」の感想をネットでやり取りして意気投合した男女が初デートに臨む。だが、待っていたのは軽い違和感の連続の末の深刻な衝突…有川浩さんの「レインツリーの国」は難聴者が主人公の恋愛小説だ▲自分が中途失聴者だと明かしていない彼女は、前を歩く彼の言葉を聞き取ることができない。会話の時には相手がたじろぐほど顔をじっと見つめる。口の動きを読み取ることで失った聴力を補完していたから▲ずいぶん前に読んだ小説のことを思い出したのは、一昨日の本欄が少し不用意だったと気になったからだ。ドラマの登場人物がマスク姿かどうかは、彼女のような聴覚障害者にとって、決して「切実度の低い心配」ではない▲冒頭では手話通訳者の皆さんの表情の豊かさにまで触れている。われながら念入りな大失態、開いた口がふさがらない。マスクがあってよかった…あ、また余計なことを▲少し窮屈な生活様式が推奨され、社会活動の本格再開に及び腰の日々が続く。ウイルス感染の抑止はもちろん最優先だが、一方でさまざまな変化や決定への物分かりが変によくなった自分に気づく。今は仕方ない、我慢、これが自然な結論-と▲思考停止に陥っていないか、何か忘れていないか。その自戒を新たにしたい。そう考えながら書いた。(智)