【国内トップドライバーオフインタビュー笹原右京】ブレーキディスクを使用した自宅トレーニングとDTMで見つけたヒント

 新型コロナウイルス禍において、国内レースの開幕が遅れている。そんななか、国内のトップドライバーたちはどのように“おうち時間”を過ごしているのか。普段の生活の様子やトレーニング事情、そして来たる開幕戦に向けての意気込みについてリモート取材を行った。

 第3回は2019年のアジアンF3とポルシェカレラカップジャパンでチャンピオンを獲得し、2020年はスーパーGT GT500クラスへチーム無限から参戦する笹原右京だ。笹原はスーパーGTへの参戦が初めてということもあり、この自粛期間中もスーパーGTの研究に余念がない。

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Q:3月に行われたスーパーGTの岡山テスト以降、自粛期間中はどのような生活をされていましたか?笹原右京(以下:笹原):レースに関して言えば過去のレース映像などを見てマシンの研究をしています。私生活ではフレンチブルドックを2匹飼っているので散歩に行く機会が増えました。あと僕の実家が自動車整備工場なのですが、ちょうど3月から4月上旬にかけてスタットレスタイヤから夏用タイヤに切り替えるお客さんが多かったのでタイヤの組み替え、脱着、オイル交換の手伝いなどをしていましたね。

以前から興味があり、トレーニングも兼ねてロードバイクを始めたという笹原。

Q:この期間に何か新しく始めた趣味などはありますか?笹原:もともとロードバイクに興味があって、ちょうど道具をそろえているところです。四輪に比べてタイヤがふたつ足りないですが(苦笑)トレーニングの一貫としてやってみようと思っています。

Q:自宅で動画コンテンツなどは見られたりするのでしょうか?笹原:YouTubeはよく見ていますね。チーム無限のコンテンツやスーパーGTのチャンネルをよく見ています。僕はスーパーGTのレース経験がまったくないので、ひと通り開催される予定があるサーキットの過去のレース動画を見て、何かしら常に研究するように心がけています。あとNetflixを見始めて、ようやく昨年公開されていたF1のドキュメンタリーをすべて見終えました。

Q:動画コンテンツでは映画なども見られますか?笹原:『フォードvsフェラーリ』はようやく見ましたね。あと『ジ・アート・オブ・レーシング・イン・ザ・レイン(The Art of Racing in the Rain)』という映画を見ました。初めて見たのはまだ自粛期間に入る前の飛行機で移動中のときでした。そのときは英語バージョンのものしかなかったのですが、最近になって字幕付きのものが出たのでもう一度見ました。すごく泣ける映画なのでみなさんにおすすめしたいです。

自宅トレーニングではダンベルの替わりにブレーキディスクを使用しているという。

■実家の強みを活かした体幹トレーニング

Q:自宅でのトレーニングはどのように行っているのですか?笹原:自宅にはジム器具などが一切ありませんが、実家の自動車整備工場を活かしたことはやっています。たとえば、ダンベルを持ってバランスボールの上に乗るトレーニングがありますが、僕の場合はダンベルの代わりに工場に置いてある大きなブレーキディスクでやるんです(笑)。結構いいトレーニングになると思いましたね。

Q:オフシーズンとシーズン中のトレーニングの内容はどんな違いがありますか?笹原:オフは足りない部分を伸ばすための内容を積極的に取り入れています。一方、シーズン中はコンディションニングがメインでリスクを減らして体を整えるメニューが多いです。いまはオフシーズン寄りのトレーニングで、6月末に予定されているテストを意識しながら組み立てています。

自宅のシミュレーター環境はかなり本格的。「自分ではここまで用意することはできませんが、縁があって用意していただいたので活用しています」。

Q:多くのドライバーがシミュレーターを投入してトレーニングをしていますが、笹原選手もシミュレーターを取り入れていますか?笹原:もともと、rFactor2とアセットコルサというソフトウェアのシミュレーターはずっとやっていて、こないだiRacingも始めました。クルマに乗る機会がないので、シミュレーターをやる時間は以前より明らかに多くなってますね。

Q:Q:今年はGT500に初参戦することになりますが、やはりグランツーリスモSPORTで練習していますか?笹原:僕はマシンによってソフトを使い分けて、それぞれ実車に近いもので走るようにしています。なかでもコースのグラフィックに関してはグランツーリスモSPORTが圧倒的にリアルに近いと思います。ただ、GT500は今年から『Class1』の規定が採用されますよね。おそらくですが、グランツーリスモSPORTには共通モノコックのデータがまだ反映されていないのではないかと思います。一方、アセットコルサでやるDTMにはデータが反映されているはずなので、タイヤが異なるという点でのマイナス面はありますが、それも考慮して僕はDTMのマシンで走っています。

■DTM勢のセッティングに見出したヒント

Q:3月に行われた岡山公式テストでの感触はいかがでしたか?笹原:僕はスーパーGT自体が初めてで、いきなりGT500に乗ることになりました。手応えとしては走るたびにいいところと悪いところがはっきり出ていたように思います。岡山のテスト時は気温がヨコハマタイヤの想定よりかなり低く、テストになったかと言われると正直微妙なところもあります。ただ、そういった状況のなかでも得られたデータはあります。

Q:NSX-GTに関しては以前からマシンの“跳ね”があるとよく聞きます。笹原:そうですね。セパンテストのときから他車に比べてコーナリング時のブレーキタイミングで細かく跳ねている印象はある。でもそれがドライビングに支障をきたすかと言われればそれほどでもなく、特に違和感とかはないです。

スーパーGTマシンとDTMマシンが激突した特別交流戦

Q:違和感を感じないというのは“跳ね”があることを意識しているからでしょうか?笹原:それもありますが、自分としてはもっと跳ねると思っていました。以前、オートスポーツの記事でジェンソン・バトンが乗ったときに「跳ねすぎて乗れない」というようなことを言っていたので「そんなに跳ねるのか」というイメージを持っていたのですが、実際に乗ってみたらそこまでではなかった。ただ、昨年行われたスーパーGTとDTMの特別交流戦でDTM勢のコーナリング時やストレートの凹凸に対する動きを見ていて、DTMのマシンはメカニカルグリップがとても高い印象を受けました。いまのNSX-GTをその方向性に近づけたらどうなるかは気になります。スーパーGTの場合はタイヤのコンペティションがあり、もともとのタイヤのグリップ力はすごく高いですが、速いマシンの基本はメカニカルグリップだと常々思っているので試してみたいですね。

Q:それでは今年のスーパーGTをどんなシーズンにしたいか教えてください。笹原:チーム無限としてはここ数年、苦しい戦いが続いているので一度でもいいから前で走りたい。武藤(英紀)さんと僕が前に出て戦っているところをファンのみなさんに見てもらいたいです。いまはそのための準備をしているところです。常にアグレッシブに攻めの姿勢で戦うということが僕らドライバーとチーム無限、ヨコハマタイヤの方針でもあるのでとにかく攻めて行きたいと思います。

Q:ファンのみなさんもチーム無限と笹原選手を楽しみにしています。笹原:ファンのみなさんも長期間サーキットに行けず、退屈な日々が続いていて大変だと思います。もうあと少しだけ耐えていただき、いざ開幕したときには一緒に楽しみましょう!

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 2016年にSRS-Fを次席で卒業した笹原は、HFDP(ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)からFIA-F4と全日本F3に参戦していたが、2019年にはホンダでの育成枠を外れることになった。しかし、レーシングドライバーとしての信念を見失わず、自身のできることをやり続けたことが功を奏し、再びホンダのドライバーとしてスーパーGT GT500のシート獲得に繋げた。笹原といえば2010年以降単身ヨーロッパへ渡り、さまざまなマシンをドライブしてきた経歴を持つ。その経験で身につけた高いセッティング能力は海外からの評価も高い。海外で鍛えられた強いメンタルとともに、新しい挑戦となるスーパーGTでも笹原右京のパフォーマンスはチーム力の向上に大きな手助けとなるはずだ。

2020年のスーパーGTに挑むTEAM MUGEN NSX-GT。岡山公式テストでは『Red Bull WHITE EDITION』の特別カラーリングとなった。

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