ニューヨークのマスクとアベノマスクの違い

「必要な人に直接渡す」独自の対応【世界から】

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ニューヨーク市保健局による無料マスク配布の様子(C)Kasumi Abe

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)をきっかけに、マスクや消毒液などが品薄状態になっている。日本ではマスク不足を解消すべく、政府が全世帯に無料の布製マスク2枚、いわゆる「アベノマスク」を配布する対策が取られた。一方、世界最多となる約180万人の感染者がいる米国でも、州ごとに違いはあるものの品不足に対応している。同じような政策だが、ニューヨークと日本では、いろいろ違う部分がある。なにより、マスク配布の仕方が違っていた。(ニューヨーク在住ジャーナリスト、共同通信特約=安部かすみ)

  ▽店頭から〝蒸発〟

  感染者がおよそ37万人と米国最大の感染拡大スポットとなっているニューヨーク州。最近になって少しずつ店頭で見かけるようになってきたが、品不足の状態が解消したとはまだ言えない状況にある。

  もともと米国人はマスクを着けたがらない。「病気を抱えている人」というイメージが強いことに加え、顔の表情が分かりにくくなるためだ。そのマスクが2月に入るとみるみる姿を消していった。筆者の自宅近所にある薬局では2枚入りの箱が売られているのを最後に3カ月ほど入荷が途絶えた。

  消毒液なども同じ時期に〝蒸発〟した。手指の除菌に使う消毒剤に加え、ドアノブなどの消毒として用いる「イソプロピルアルコール」や除菌クリーナー、除菌スプレー類などがあれよあれよという間に棚からなくなった。

  とはいえ、商品が完全に枯渇しているわけではない。あるところにはあるのだ。例えば、マスクは薬局で品切れになった直後から、路上でバラ売りする人たちを見かけるようになった。値段は業者によってまちまちだが、いずれも薬局での通常価格よりずいぶん高い値段で売られていた。

  消毒用アルコールや除菌クリーナーなども数は少ないが薬局やスーパーに入荷していた。いずれにせよ、開店と同時に一瞬でなくなってしまうので手に入れるのは至難の業なのだが…。

配布された黒マスク。場所や日にちによっては白い布マスクの場合もあるという(C)©Kasumi Abe

  ▽消毒剤は刑務所で生産

  これらの商品に関してはオンライン販売を中心に悪徳業者が不当なほど高額で販売していることも問題になった。不足問題と高額販売問題への対策として、ニューヨーク州ではさまざまな試みが行われてきた。

  まず、手指の除菌に使う消毒剤について、同州は3月上旬よりオリジナル商品「NYSクリーン・ハンドサニタイザー」の生産を開始した。「ハンドサニタイザー」は手指用の消毒剤のことだ。生産を手がけるのは刑務所の受刑囚。クオモ知事は「週に10万ガロン(約38万リットル)を生産することが可能」と胸を張った。

  マスク不足はさらに深刻だった。理由は米疾病対策センター(CDC)の見解が変わったためだった。

  CDCは当初、頻繁に手を洗わなければ医療用でない通常のマスクの使用は効果的でないと、予防効果の低さを指摘していた。ところが4月3日にこれを一変させる。

  顔の一部を覆うためにマスクや布の使用を要請する勧告を発表したのだ。感染拡大の激しい地域の食料品店やドラッグストアなど公共の場所での着用を強く勧めている。

  発熱などの症状を示していない感染者が、会話やせきなどで飛ばす飛沫(ひまつ)でも他人を感染させる恐れを指摘する研究報告を受けた判断なので、感染防止という観点からは十分理解できる。しかし結果として、マスクを求める人がさらに増加した。

 同17日には、公共の場で社会的距離が保てない際のマスク着用をニューヨーク州が義務付けた。このこともマスク不足に拍車を掛ける要因となった。そこでニューヨーク州内の自治体は、必要とする人への無料配布に着手した。

米ニューヨークの公園で、新型コロナウイルス対策のマスクを配る警察官(右端)=5月17日(AP=共同)

  ▽直接渡す

  5月の週末、自宅近くにある公園の入り口でもマスクが無料配布された。長い列はできていたが、皆社会的距離を保ちながら整然と並んでいた。大きな混乱もなく5分ほどでもらえた。マスクをしていない人に警察官が手渡すこともある。

  この日配布されていたのは、5枚が一束になった黒いマスク。洗濯可能で何度か使えるという。縫製もされておらず、耳を掛ける切れ込みが入れられただけの簡素な作りだ。しかし、マスク不足の中ではありがたい。何しろ当地では状況や人々の価値観が一変している。マスクを着用していないと入店拒否にあうだけでなく、「他人への敬意がない証し」と捉えられて警察官から注意を受けることもあり得るのだから。

  日本政府が配布する、「アベノマスク」は全世帯に郵送するため配布に膨大な手間と経費がかかっている。ところが、4月1日の発表から2カ月が経過してもマスクが手元に届いていない人は少なくないと聞く。届いたマスクを不要として寄付する動きも盛んになっている。国会中継や政治家の会見映像を見ていても安倍晋三首相以外の閣僚や役人でアベノマスクを付けている人を確認するのは至難の業だ。

  対して、ニューヨーク州は郵送ではなく「必要な人に直接配布する」という手法を取っている。手渡しではなくテーブルに置かれたマスクをピックアップする方法だったがこの政策を決定した州や市、何より配布を担当している人への感謝の気持ちが自然と湧いてきた。

  せっかく配るマスクやそれに伴う費用を無駄にしないという点で、ニューヨーク州のやり方は効率的だ。日本でも今後、参考になるのではないだろうか。