「長崎新スタは収容人数縮小」「欧州では仮想観客席」Withコロナの理想的スタジアムとは?

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J2リーグに所属するV・ファーレン長崎の新たな本拠地として構想中の長崎スタジアムシティプロジェクトが、収容人数の縮小を検討していると明らかにした。3密を避けるため、座席間隔を広げ、新たな生活様式に対応するための判断であるという。一方、デンマークのスーペルリーガでは、オンライン会議ツールを用いてスタジアムとファンをつなぐ「仮想観客席」を導入。国内外さまざまな試みが行われているなか、新時代に求められる理想的なスポーツ観戦スタイルとは一体どのようなものなのだろうか? スタジアム・アリーナの専門家である上林功は、スタジアム内外、両面での新たな整備と実装が必要だと語る。

(文=上林功、写真=Getty Images)

収容人数を縮小し、計画を見直す長崎スタジアムシティ

新型コロナウイルスに関して専門家会議から「新たな生活様式」として「歌や応援は、十分な距離かオンラインで」との考えが示され、東京都からは段階的な再開にむけたロードマップが示されました。国外ではサッカーのドイツ・ブンデスリーガや韓国のKリーグなど無観客試合によるプロスポーツ再開がはじまり、国内でも6月19日からのプロ野球の無観客試合での開催が発表されました。

現在構想が進められている長崎スタジアムシティでは、観戦者数を2万3000人から2万人規模に収容人数を縮小し、計画内容を見直すうえで生活様式を変えていかないといけないとの考えを示すなど、スポーツ観戦の在り方そのものが問われつつあります。密な状態でぎゅうぎゅうになって応援するだけでなく、レストランで食事を囲みながら、風景を楽しみながら、子どもたちが遊ぶ傍らで、といった人それぞれのスタジアムでの過ごし方、好みに合わせた観戦スタイルを追求できるスタジアムが必要になってきていると読み替えることができるかもしれません。

既存のスタジアムについても、今後、段階的に観客をスタジアムに入れる方策がとられると思いますが、これまでの観戦スタイルに対してその場その場の対処的な方法を加えるだけでは、潜在的なリスクに対応できないと考えています。そもそもスポーツ観戦は密集・密接、屋内スポーツであればこれに密閉が加わり、まさに3密を基本とした環境だっただけに、これまでのスタジアム観戦のスタイルそのものを根本から大きく変える必要があります。これまでのスタジアム・アリーナでの観戦スタイルに併せて、ウィズコロナポストコロナと段階的に移行する状況にあわせた段階的に観戦スタイルを変更することになるでしょう。

一方で、デンマークのスーペルリーガがオンライン会議ツールを利用してフィールドと配信視聴者をつなぐ試みを行ったり、国内でもジュビロ磐田や清水エスパルスがヤマハとスタジアムアプリを使って声援・拍手をスタジアムに届ける実証実験を行うなど、これまでとはまったく異なる試みも生まれてきています。今回の無観客試合によるオンライン配信や、段階的な観戦スタイルの試行をスポーツ観戦の新たな価値をつくるチャンスではないかと考えています。観客を入れることができない今だからこそできる工夫をリーグ、チーム、スタジアム・アリーナ関係者が一体となって考えるタイミングだと思います。

プロスポーツ観戦再開のロードマップは果たして安心か?

すでに東京都のロードマップにも示されているように、まずはスタジアムでの来場者はどうしても少なくせざるを得ないと考えます。では具体的にどれくらい来場者を少なくしなければならないでしょうか。都の基準によれば様子を見ながら段階的に7月10日以降で上限5000人もしくは収容人数の50%以内としています。

ただ、この基準はより精査してそれぞれのスタジアムに照らして考える必要があると考えています。社会的距離の確保という視点から見てみましょう。これまでの一般的な観客席が一人当たり約0.5~0.7㎡弱の専有面積であることから、1人に対して周囲半径1mの社会的距離を確保したとして約3.5㎡の広さを確保しなければなりません。コンコースの面積なども含めて考える必要がありますが、おおよそ1/5~1/7の収容人数となります。このことは定員3万5000席未満のスタジアムでは上限5000人もしくは収容人数の50%とした場合でも十分な社会的距離が取れない可能性があることを指しています。一律な基準はわかりやすいのですが、スタジアムそれぞれの特徴に応じた対策が必要であり、より丁寧な対策が安心安全につながると考えます。

社会的距離をとる、スタジアムのぜいたくな使い方とは?

使用できる観客席を減らすと席の価格を上げないことにはチケット収入の採算がとれません。来場者チェックも考えると全席指定席として席のグレードを上げざるを得ないと考えます。通常、グレードを上げるというと、サイドテーブルやクッションなどのサービス向上などが考えられますが、これは観客席が密な状態でのサービスですので、スペースに余裕がある今後の状況を逆手に利用して、新たな観戦スタイルの検討を行うことも考えてよいのではと思います。

例えば私自身が設計に携わった広島のマツダスタジアム(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)では、外野席の一部に人工芝を敷いた「寝ソベリア」を設けました。これは旧市民球場で最後までチケットが売れ残るエリアに付加価値をつけようと企画されたものですが、ハイハイしかできない小さな赤ちゃんを連れた若夫婦が親子でゴロゴロしながら観戦できるシートとなっており、これまでスタジアムに来場しにくかったファン層を取り込んだ事例となります。スポーツの観客席は野球やサッカーに限らず、とにかくファンを詰め込むことを前提とした観戦スタイルでしたが、期せずしてスペースに余裕を持たせることをやむなしとする機会を得た今、これまでできなかった観戦スタイルの検討を進めるべきだと考えます。

左右だけでなく、前後にも社会的距離をとると、視線設計上の制約がとても緩くなります。つまり立ってウロウロしても後ろの迷惑にならないような客席配置も考えることができるのです。近年NBAなどを中心にフィールド直近にラウンジ式のラグジュアリーシートを設ける例がありますが、思い切って一部の観客席を外してグループ向けのシートエリアを設けてもよいかもしれません。

こうしたスタジアム内での行き届いたサービスシートについて、昨年全国で行われたラグビーワールドカップの付加価値の高い席として設けられたホスピタリティを高めた仮設のラウンジスペースが記憶に新しいところです。Withコロナにおいて、ある程度ウイルスとの共存による観戦スタイルを考えるのであれば、余裕のあるスペース、安心安全のサービス、確実な環境衛生の管理など、席数を減らしてでもホスピタリティを高めることは、Withコロナの観戦スタイルの一つの姿のように思います。

スポーツを街に開く、拡張するスタジアムとは?

一方でこうした考えはスポーツを一部の人たちだけが楽しめる高価な娯楽にしてしまう恐れがあります。より多くのファンが参加しつつも、社会的距離を取りつつ、誰しもが楽しめる仕組みも必要です。無観客試合でも行われるライブ配信ですが、例えば配信を利用してスタジアムを拡張する方法はどうでしょうか。もちろん、観客席スタンドを増設するとかいった方法ではなく、ライブ配信されるスポーツ観戦をファン同士が共有できるエリアをスタジアム外にも広げてみてはどうかという考えです。

例えば国内で見てみますと、横浜スタジアムにおいてスタジアムを取り囲む横浜公園を利用して、ビアガーデンを公園内に展開するとともに、大型ディスプレイやスマートフォンでの配信によるライブビューイングが行われています。

海外ですとMLBボストン・レッドソックスの本拠地であるフェンウェイ・パークは1912年開場と古いスタジアムで、敷地いっぱいに建てられているなか、周辺道路を歩行者天国にして、官民連携による一時的なスタジアム施設の拡張を行っています。周囲の公共空間を利用して、物理的に不足するスペースを充当しているのです。

スタジアム内がサービスの充実した観客席となるのであれば、スタジアム外は誰しもが楽しめるカジュアルでオープンな観客席です。十分な社会的距離を確保しながら、思い思いの観戦を楽しめるスペースとして開放してみる方法があるのではと考えています。各都道府県のファンコミュニティと連携して、地方にもこうしたスペースをつくり、全国にスタジアムを拡張し、3密や移動リスクを避ける工夫ができるのではとも考えます。

5G環境の整備と観戦を通じた実証を!

スタジアム内でのホスピタリティの向上、スタジアム外でのオープンな観戦環境、こうした取り組みが今まで進まなかった理由にオペレーションの煩雑さや、広範囲のエリアマネジメントが物理的に難しい点が挙げられます。ところが、これらの問題を解決してくれる方法の一つが、このコロナ禍の陰でひそかにはじまっていました。4月から始まった5Gによる高速・大容量無線通信サービスです。まだ基地局が少ない問題もありますが、この際、街中のスタジアムを中心とした5G環境の整備と観戦を通じた実証を兼ねてみるのもよいのではないでしょうか。

スタジアム内でスペースをぜいたくに使おうとした時に問題となるのは、スタッフの対応です。観戦者の人数は少なくなりますが、スタジアムそのものは元の大きさのままですから、サービス内容を上げてもスタッフによるサービスを行き届かせるにも限界があります。5Gによる通信環境を整えて、うまくスタジアムアプリを活用できれば、サービスの充実を図るとともに、スタッフがそれぞれの観客をカバーし、席移動による観客の間接的な接触感染リスクを下げる工夫にもつながります。

スタジアム外での観戦スタイルでは大型ビジョンやスマートフォンなどの機器を利用した間接的な観戦に頼らざるを得ません。従来、どうしても映像配信にタイムラグが生じてしまっていましたが、5Gによる高速・大容量通信を使用することで、スタジアム内外でのズレのない観戦が可能となります。

新時代の理想的なスタジアム像とは?

スタジアムをぜいたくに使う、スタジアムを周辺に拡張する。これら2つの提案は従来のスタジアムでは興行を行いながら試すにはファンサービスの兼ね合いから難しいところでしたが、今回改めて試す機会が出てきたと考えることができます。

また、ポストコロナのスポーツ観戦において、これらの取り組みは従来の観戦スタイルに重ねることでよりスポーツ観戦の多様化につなげることができると考えています。観客がより楽しめるサービスの検討、スタジアム周辺の公共空間を利用したエリアマネジメントの検討、5Gに代表される通信環境の充実。すべて、これまでスタジアム・アリーナにおいて課題となっていたことばかりです。

ピンチを嘆くのではなくチャンスとしてつかむことが今のスポーツには何より重要と考えます。折しも新型コロナウイルスに打ち勝つとの共通の目的が官民一体での地域を盛り上げる機運につなげることができるタイミングでもあります。今こそ新しい生活様式「ニューノーマル」でのスタジアム・アリーナについて考えるタイミングです。

またプロスポーツももちろんですが、個人的に最も気にしているのは多くの東京五輪施設です。IOC(国際オリンピック委員会)は4月29日にすでに提言していますが、ポストコロナの社会では公衆衛生がはるかに重要な役割を果たすようになります。対処的なその場限りの対策を行ってもどうにもならず、世界中からの来場者が観戦後に安心して帰国できる東京発の新しい観戦スタイルを世界に発信し、本大会のレガシーとするぐらいにしなければ、世界に新型コロナを再配布した大会として記憶されかねないと危惧する次第です。

<了>

PROFILE
上林功(うえばやし・いさお)
1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース 准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。主な担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」など。2014年に株式会社スポーツファシリティ研究所設立。主な実績として西武プリンスドーム(当時)観客席改修計画基本構想(2016)、横浜DeNAベイスターズファーム施設基本構想(2017)、ZOZOマリンスタジアム観客席改修計画基本設計など。「スポーツ消費者行動とスタジアム観客席の構造」など実践に活用できる研究と建築設計の両輪によるアプローチをおこなう。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究所リサーチャー、日本政策投資銀行スマートベニュー研究会委員、スポーツ庁 スタジアム・アリーナ改革推進のための施設ガイドライン作成ワーキンググループメンバー、日本アイスホッケー連盟企画委員、一般社団法人超人スポーツ協会事務局次長。一般社団法人運動会協会理事、スポーツテック&ビジネスラボ コミティ委員など。