申告敬遠導入から2年間で故意四球は約2倍に 投手起用の流れ、ドラマは無くなった?

申告敬遠導入から2年が経過したどうなった?

2017年にメジャーで導入された「申告敬遠」

2017年、野球というスポーツにおいて大切な要素の1つに大きな変化が起こった。ピンチの場面など、打者との勝負を避けたいときにあえて四球を与える「敬遠」についてメジャーリーグで審判にその旨を告げるだけで敬遠が成立する「申告敬遠」の制度が施行された。

この革新的な制度は、翌年海を渡って日本でも導入されることとなった。当初は賛否両論が展開されたが、2年を経て、プレーする選手たち、そして観戦するファンも徐々にこのルールに慣れてきているだろう。

申告敬遠の主な目的は、試合時間の短縮という点にある。投手、捕手間でのボールの受け渡しがなくなることで、試合の展開を速める効果が見込まれた。一方で敬遠の方法が変わっただけにも関わらず、ここ2年の記録を見るとその数にも変化が表れている。

そこで今回はこの「申告敬遠」に注目し、導入以前の2年間(2016年、2017年)と導入後の2年間(2018年、2019年)を比較し、チームごと、選手ごとに敬遠数の変化を見ていきたい。なお、今回は敬遠数としてNPBの記録にある「故意四球」の数を参照する。

どのチームもルールの変更によって敬遠の数が大きく変化している

パ・リーグ全体では「申告敬遠」導入後に故意四球数が約2倍に増加

まずはパ・リーグ全体の数字の変化を見ていく。2016年、2017年は61個、47個と1チーム平均で8~10個といった数字となっている。これに対して、申告敬遠導入後の2年間は129個、107個、チーム平均で18~20個とほぼ倍を記録。新ルール導入により、リーグ全体で故意四球の数が増加した。

続いてはチームごとの数字を比較。申告敬遠の導入を境とした2017年、2018年の間では西武を除く5球団が倍以上の増加となった。どのチームもルールの変更によって敬遠の数が大きく変化している。

このうちロッテと楽天は、2018年から新監督が就任(楽天はシーズン途中で交代)したことが影響している可能性もあるが、ソフトバンク、そして日本ハムはこの期間に工藤公康監督、栗山英樹監督が続けて采配をとっており、オリックスの福良淳一前監督もルール変更時に継続して監督を務めた。この3チームの増加は申告敬遠と無関係ではなさそうだ。

2019年は、リーグ連覇を達成した埼玉西武も敬遠数が増加し、6球団での合計は2年連続で100個を超えた。今季はシーズン延期によって143試合行うことは難しくなったが、この傾向はどのように変化するだろうか。

導入直後の2018年は規定投球回に達した先発投手の平均故意四球数が1.9個と大幅に増加

投手の個人成績から読み取れる「申告敬遠」ブーム

続いて投手の個人成績から敬遠数の推移を見ていく。まず先発投手から確認すると、2016年は「規定投球回に到達した上で2個以上の故意四球を与えた投手」が元ロッテのスタンリッジ氏のみ。翌年も岸孝之投手、二木康太投手の2名だったのに対し、申告敬遠の導入された2018年は涌井秀章投手(当時・ロッテ)の4つ、岸孝之投手の3つを筆頭に5人が2個以上の故意四球を記録していた。

規定投球回に達した投手の平均でも、導入前の2年間が0.6個、0.7個と推移していたのに対し、2018年は1.9個と大幅に増加。球界全体での申告敬遠ブームがこの数字にも表れていた。しかし、去年は規定投球回に達した投手が6人と過去4年で最小だったこともあって、敬遠の数は1人あたり0.3個と大きく減少。その数字を大きく減らしたが、先述したようにリーグ全体としての敬遠数は変わっておらず、徐々にその用いられ方が変化していると考えられる。

セーブ数上位5投手の間でも18年、19年はより作戦として選択されやすくなった

次に中継ぎ投手の成績を見ていこう。最初に過去4年間、シーズンでのセーブ数上位5名の故意四球数を確認すると、2016年はサファテ投手が1つ、増田達至投手が5つ、2017年は増田達至投手が2つ、増井浩俊投手が1つ、その他の投手は0となっている一方、18年、19年は上位5名にすべて故意四球が記録されている。

楽天・松井裕樹投手を例にとると、2016年、2017年は故意四球が0だったのに対し、申告敬遠の導入以降は2018年に2個、2019年にも同様に2つの故意四球を記録しており、より作戦として選択されやすくなったことが伺える。

ホールドの上位でも同様の傾向が見られる

2シーズンを経て運用が確立されつつある「申告敬遠」

ホールドの上位でも同様の傾向が見られる。2017年は上位5投手で故意四球を与えたのがシュリッター投手(元・西武)の1つのみであったなか、2018年は一転して加治屋蓮投手の5個、宮西尚生投手の3個を筆頭に全員が故意四球を記録している。昨季は宮西投手が0個となったものの、西武・平井克典投手が3個を記録するなど、引き続き申告敬遠が多い傾向は変わらなかった。

2018年の申告敬遠導入によって、故意四球、つまり敬遠の数は大きく増加している。また、試合終盤の勝負どころで用いられるケースが増え、中継ぎ投手に記録されることが多くなってきた。導入1年目の2018年から2019年にかけて数が減少しているのは、各チームがその運用方法を明確にしつつあると考えられそうだ。

日本球界では過去、「4球のボール球を投げる」というプレーから、敬遠球を捉えてのサヨナラ安打など多くのドラマが生まれてきた。敬遠のルールが大きな転換点を迎えてから2年が経過した今季、「申告敬遠」はどのような傾向となるか注目だ。(「パ・リーグ インサイト」成田康史)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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