社説:香港と米中対立 覇権争いに深まる懸念

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 トランプ米大統領が、香港に与えてきた関税やビザ(査証)の特別優遇措置の廃止手続きを始めると表明した。

 香港の自治を揺るがす国家安全法制の導入を決めた中国への対抗措置で、法制に関与した中国や香港の当局者に制裁も科すという。

 国際社会の懸念をよそに、中国は力ずくで治安統制強化に踏み切った。

 ただ、米中の対立が先鋭化すれば、国際社会を巻き込んだ大規模な覇権争いに発展しかねない。香港の問題を覇権争いに埋没させてはならない。双方ともに冷静な対応が必要だ。

 米国は、香港の一国二制度が機能していることを前提に、香港を中国とは別に扱っている。関税などの優遇廃止は、香港を投資や貿易の窓口として利用してきた中国には打撃となろう。

 短期的には米国のほうが影響は大きいとの見方がある。現地に進出している米企業の駐在員が米国への移動時にビザを取りづらくなる可能性もある。

 それでもトランプ氏が優遇の廃止を表明したのは、11月の大統領選への危機感があるのだろう。米国では新型コロナウイルスによる死者が10万人を超え、好調だった経済が急速に悪化している。世論調査では接戦州で野党民主党のバイデン氏にリードを許している。

 民主主義や人権といった国際社会が共感しやすい香港問題で対中攻勢をかけ、新型コロナ対応などで高まる国民の不満をそらしたいとの狙いがあるのではないか。

 一方、中国も強気な姿勢を崩していない。

 新型コロナの感染拡大を機に、各国に医療物資などを送る「マスク外交」で影響力を高めようとしている。米欧の苦境を横目に「世界の指導国」としての地位をうかがおうとしている。

 ただ、米中双方には最悪の全面対決は回避したいとの思惑も見える。トランプ氏は対中貿易協議の「第1段階」合意の破棄に踏み込んでいない。中国も優遇廃止方針を内政干渉だと反発しつつ、対抗措置に出るかは今後の米側の対応次第としている。

 新型コロナはいまだ収束していない。感染拡大の阻止や経済の再生に向け、各国が最新の知見や経験を持ち寄る国際協調こそが求められている。

 コロナ禍に乗じた大国の覇権争いは避けなければならない。対抗措置の応酬ではなく、事態打開の糸口を探るべきだ。