<社説>米黒人男性暴行死 差別のない社会へ変革を

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 米国で黒人男性が白人警官に暴行され死亡する事件が起きた。暴行の一部始終を捉えた動画がインターネットで拡散されると、米各地で抗議デモが発生し、日に日に激しさを増している。一連の出来事は米国の歴史に刻み込まれた人種差別の根深さをあらためて浮き彫りにした。 事件は米中西部ミネソタ州ミネアポリス近郊で5月25日に発生した。偽札を使おうとした人物がいるとの通報を受け、駆け付けた白人警官によって拘束された黒人男性が死亡した。警官は膝で、うつぶせにした黒人男性の首を8分46秒にわたって地面に押し付けた。

 動画は黒人男性が「息ができない」と訴え続けているにもかかわらず行為をやめない警官の姿を映し出している。警官は黒人男性が「抵抗した」と説明するが動画の状況と明らかに異なり、警察に対する不信を高めた。市民の命と安全を守るはずの警察官によって不当な暴行を受け、死の危険にさらされる人々の恐怖は想像を絶する。

 関係した警官4人は翌日解雇され、黒人男性を押さえ付けていた警官は逮捕された。だが、抗議デモは収まらず全米の75都市以上に拡大し一部が暴徒化している。米メディアによると夜間外出禁止令が出たのは全米の40都市以上に達した。外出禁止令を出した都市の数は、公民権運動を率いたマーチン・ルーサー・キング牧師が暗殺された1968年以来の規模だと伝えた。

 米国では今も黒人差別の問題が繰り返し起きている。1992年には黒人男性を殴打した白人警官が無罪になったことに黒人が猛反発し暴動に発展した。2014年にも、白人警官が銃を持っていない黒人の青年に発砲したことを受け、大規模な抗議デモが起きた。

 一部暴徒化したデモに対し、トランプ米大統領は1日、各州知事に州兵の出動を求め、応じない場合、軍を派遣する考えを示した。「極左勢力」や「犯罪者」がデモを行っていると主張した。人種差別問題から国民の目をそらそうとしているように見える。

 トランプ氏は昨年、中国本土への容疑者引き渡しを可能とする「逃亡犯条例」改正案を巡る香港でのデモに対し、中国が部隊投入を辞さない姿勢を見せたことをけん制した。自国のデモに対しては武力の投入を主張するのは支離滅裂だ。

 分断をあおるような言動を繰り返し、人種差別を助長してきたトランプ氏の姿勢も、今日の事態を招いた一因と考えられる。大統領としての資質が厳しく問われる局面だ。

 もちろん、暴徒による略奪や破壊行為は許されない。秩序の回復は至上命令だが、武力で押さえ付けようとする前に、冷静に事態を収める努力が求められる。

 人種差別のない社会をつくるため率先して行動することは大統領の務めだ。