黒人男性の暴行死に抗議、全米で続く トランプ氏を教会関係者や映画監督が批判

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白人警官に首を圧迫されて黒人男性が死亡した事件をめぐり全米各地で2日夜から3日日未明にかけても、夜間外出禁止令を無視して抗議行動が続いた。ただし、前日に比べると暴力行為は少なくなった。一方で、前日のトランプ氏の行動に、キリスト教関係者の批判が高まっている。

中西部ミネアポリスでジョージ・フロイドさんが警官に暴行されて死亡したことに抗議して、複数の都市で数十万人が抗議した。8日目になるこの日の抗議行動は、多くが落ち着いたものだった。

地元では6万人がデモ行進

死亡したフロイドさんが育ったテキサス州ヒューストンでは2日、フロイドさんの遺族16人をはじめ、約6万人が平和的にデモ行進した。

地元紙ヒューストン・クロニクルによると、フロイドさんのおいは集まった人たちに、「おじのため正義を獲得するまで、やめないでください」と呼びかけた。

ヒューストンのシルヴェスター・ターナー市長は、「彼の死は無駄ではない」と集まった人たちに訴えた。

フロイドさんの6歳になる娘ジャナちゃんの母、ロキシー・ワシントンさんはミネアポリスで記者会見し、涙ながらにフロイドさんはいい人間だったと言い、「ジョージのために正義を求めます」と述べた。

フロイドさんは9日にヒューストンに埋葬される予定。

ロサンゼルス、フィラデルフィア、アトランタ、シアトルでも大規模な抗議集会が開かれた。事件現場のミネアポリスは比較的平穏だったものの、シアトル、ポートランド、アトランタでは催涙ガスが使用されたという。

首都ワシントンでは州兵(ナショナル・ガード)がリンカーン記念堂の前やホワイトハウス周辺などに配備され、日没後には警官隊が抗議者に催涙ガスを打ち込んだ。ホワイトハウスへ向かって行進する人たちの頭上には、ヘリコプターが旋回していた。

1日夜にマンハッタンで百貨店などが略奪被害にあったニューヨーク市は2日、夜間外出禁止令を7日まで継続すると発表。午後8時から午前5時までの外出が禁止となった。それでも抗議者は道路で行進を続け、路上の交通はストップした。大勢がパトカーを取り囲む映像も拡散されている。

ネヴァダ州ラスヴェガスでは2日、群衆を排除しようとした警官1人が銃撃を受け死亡した。ミズーリ州セントルイスでは警官4人が撃たれ負傷した。

イリノイ州シカゴでは2人の死亡が報告されているが、詳しい状況は分かっていない。前日にはケンタッキー州ルイヴィルで、駐車場で抗議する集団を警察と州兵が排除しようとする際に発砲があり、飲食店経営者の黒人男性が死亡した。

社会不安が続く中、ドナルド・トランプ米大統領は1日、市や州が「市内を制圧する」ために必要な行動を拒否するなら、騒乱を鎮静するために軍を投入すると警告した。しかし2日にはニューヨークのビル・デブラシオ市長が州兵や軍隊の使用を拒否した。

キリスト教関係者がトランプ氏に反発

トランプ氏は1日、ホワイトハウス近くのセントジョン米聖公会教会の前で聖書を持ち、写真撮影に臨んだ。これに先立ち連邦公園警察などは、ホワイトハウス前の公園周辺で抗議していた人たちを催涙ガスやゴム弾などで排除していた。これには、米聖公会ワシントン教区のマリアン・ブッド主教をはじめ多くの聖職者が、聖書や教会を「小道具」に使ったと強く反発していた。

ワシントン教区のマイケル・カリー大主教も、トランプ氏が聖公会教会を「政治的な目的のため」に利用したと批判した。

しかしトランプ氏は2日、聖ヨハネ・パウロ2世国立聖堂も訪問。これについて、キリスト教カトリック教会ワシントン教区の大司教も、聖堂が「悪用」されたと強く批判した。

グレゴリー大司教は、トランプ氏の訪問に先立ち発表した声明の中で、カトリックはすべての人の権利を守るべきであり、トランプ氏が聖ヨハネ・パウロ2世国立聖堂を訪れたことは教会の教理に反すると述べた。

大司教はさらに、トランプ氏が前日に、ホワイトハウス近くの教会まで歩いて行けるよう、周辺で抗議していた人たちを強制的に排除したことも非難した。

大司教は、聖ヨハネ・パウロ2世なら「礼拝所の前での写真撮影のために、催涙ガスやほかの抑止力を使って(抗議者を)黙らせたり、追いやったり、威嚇したりすることは容認しないはずだ」と述べた。

グレゴリー大司教は、ワシントン教区を率いる初のアフリカ系アメリカ人。

英国教会の最高指導者、カンタベリー大主教とヨーク大主教は、この社会不安によって「白人至上主義の悪行が続いている」ことが露呈したと述べた。

カトリック教会のローマ法王フランシスコは、「人種差別は容認できないし、見えない振りをすることもできない」と非難しつつ、「暴力では何も得られないし、あまりにたくさんのものを失ってしまう」と述べた。

BBCのマーティン・バシール宗教編集長は、今年11月の大統領選で再選を狙うトランプ陣営はここ数週間、白人のカトリック教徒の票を取り込もうとしてきたと指摘する。

今年11月の大統領選でトランプ氏と争う見通しのジョー・バイデン前副大統領は、セントジョン米聖公会教会前でトランプ氏が聖書を掲げたことについて触れ、「たまには聖書を開いてくれればいいのにと思う」、「振り回すのではなく、聖書を開いていればトランプ氏は何かを学べていたかもしれない」と述べた。

「崇高な教会の前で写真撮影をするために、大統領の命令で催涙ガスや閃光弾が使われ、平和的な抗議者が『人民の家』であるはずのホワイトハウスの目の前から排除された。トランプ氏は教会の教えよりも権力に関心があるようだ。そう考えても、神は許してくださるはずだ」

バイデン氏はまた、トランプ氏がこの危機的状況を利用して、キリスト教保守派など自分の「支持基盤の情動にアピール」していると批判した。

「大統領たるもの、私たち国民全員を気遣う義務がある。支持基盤や献金者だけでなく、私たち全員のことを」と、バイデン氏は訴えた。

米メディアによると、トランプ氏が教会まで歩く前に、通過する公園の抗議者を催涙ガスやゴム弾で排除するようシークレットサービスや連邦警察などに命令したのは、ウィリアム・バー司法長官だったという。トランプ氏がホワイトハウスで演説する前から、バー長官はホワイトハウスの外で機動隊を視察していた。

一方で、トランプ氏自身はツイッターで、「みんな勘違いしてる! もし抗議者がそんなに平和的なら、なんで前の晩に教会に火をつけたんだ? みんな僕が歩いたのを気に入ってくれたよ」と書いた。

ホワイトハウスの近くにあり「大統領の教会」とも呼ばれるセントジョン米聖公会教会には、31日夜の激しい抗議行動の最中に地下室に火がつけられた。ただし、ただちに消火され、被害は少なかった。

ワシントン市警の指揮権をホワイトハウスが?

ワシントン市警の指揮権を同市からホワイトハウスが引き継ぐという案を、複数の米政府職員が提案したと、同市の市長室職員が2日に明らかにした。

米紙ワシントン・ポストによると、ワシントンは「市長と市議会が統治する特別区で自治を認められているが、緊急時には連邦法にもとづき大統領が地方警察官を指揮することができる」という。

ワシントンのミュリエル・バウザー市長の首席補佐官、ジョン・ファルシキオ氏は、報道のような動きがあれば市長は法廷で争う構えだとトランプ政権側に伝えたと、記者団に明かした。

バウザー市長は先に、ワシントン市警の指揮権を取り上げようとするのは、「コロンビア特別区の限られた自治や安全を侮辱するもの」だと述べていた。

市長は2日の米MSNBCに出演した際、トランプ氏が1日にホワイトハウス近くの公園まで徒歩で向かったことを批判した。

トランプ氏が1日に近くの教会へ移動する直前、催涙ガスなどで平和的な抗議者を排除したのはワシントン市が管轄するワシントン市警ではなく、連邦政府が管轄の公園警察だった。

そのため、バウザー市長は「私は午後7時からの外出禁止令を発出した。外出禁止令を出すちょうど25分前に、一方的に、連邦警察がホワイトハウス前にいた平和的な抗議者に対して弾薬を使用した。こうした行為によってワシントン市警の任務遂行がより難しくなる。恥ずべき行為だ!」と怒りのツイートをした。

アメリカでは連邦警察や州警察、市警など、警察機関の管轄はそれぞれ異なる。国内の緊急事態対応が通常任務の州兵は通常は州知事の要請のもとに出動するが、連邦政府軍の予備役でもある。2日にはワシントン各所に配備された。

長年の隔離と格差

アメリカは、長年にわたる人種間の緊張や社会に組み込まれた人種隔離による社会経済的な格差、黒人に対する警察暴力の問題を抱えてきた。最近ではジョージア州で住宅地を走っていて白人親子に射殺されたアーモード・アーバリーさんや、ケンタッキー州の自宅で警察に射殺された救急スタッフのブリオナ・テイラーさんなどをめぐり、怒りと苛立ちが高まっていた。

抗議に参加する多くの人は、フロイドさんの暴行死そのものに抗議するだけでなく、黒人市民への警察暴力全般に抗議し、「Black Lives Matter」と繰り返している。

「Black Lives Matter」は、2013年から2014年にかけて、アメリカの黒人に対する差別や暴力に抗議する運動の合言葉となり、2014年8月に南部ミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人男性が白人警官に射殺されたのを機に、全国的な抗議運動と共に広がった。「白人と同じように黒人の命にも意味がある」という意味が込められている。

今回亡くなったフロイドさんのほか、2014年7月にはニューヨークで黒人男性のエリック・ガーナーさんが警官に取り押さえられ、「息ができない」と叫んだ後に亡くなっている。

フロイドさんが死亡したミネアポリスでは2016年7月、自動車の後部ライトが壊れていたため警察に呼び止められた黒人男性フィランド・カスティールさん(32)が、警官に撃たれて死亡している。また、この前日には南部ルイジアナ州で黒人男性が警察に射殺されていた。また1カ月後の8月半ばには、中西部ウィスコンシン州で黒人男性が警察に射殺され、続く同年9月下旬には南部ノースカロライナ州でも黒人男性が警察に射殺された、激しい抗議が市内で起きた。

米国勢調査などによると、アメリカでは最も警察に射殺されやすい人種はアフリカ系。複数の調査によると、違法薬物を使う割合は白人と黒人で大きな差はないが、逮捕率は黒人の方がはるかに高い。

アフリカ系アメリカ人の暮らしを映画で描き続けてきたスパイク・リー監督は、「ジョージ・フロイドさんを大事にすべきだが、それだけじゃない」と、差別と格差の問題の大きさについてBBCに話した。

リー監督は、動画配信大手ネットフリックスで公開する新作映画「Da 5 Bloods」についてBBCに語る中で、アメリカの人種対立は「新しいことじゃない。もう400年も続いてきた」、「自分たちは生まれつき、ただ怒ってるわけじゃない」と述べた。

アメリカでこれほど大勢が怒っている理由について、リー監督は「黒人があちこちで殺されて、おまわりたちにはおとがめなしだからだ」、「黒いみんなや茶色いみんなが怒ってるのは、教育とか水道の水が汚いとか、人種差別とか、持てる者と持たないものの格差がひどいからだ」、「自分が勝てないように仕組まれたこの世界で、毎日生きてるからだ」と話した。

リー監督はさらに、相次ぐ抗議行動に対して軍の投入も辞さない姿勢のドナルド・トランプ大統領について、「ギャングだってことが分かったし、独裁者になろうとしてるのも分かった」と話した。

トランプ大統領がホワイトハウスを出て教会前で撮影した一連の行動について、リー監督は「家族と一緒に夕べ見ていて、こんな演出がありかって信じられなくて、叫んでいた」と話した。

「力を誇示して威圧した。自分が歩いて教会に行きたいからって、平和的にそこにいる罪のない人たちにガスを使って通りを空にするなんて。まったく馬鹿げている」

教会の前に立ち、自分のものではないという聖書を手にしたトランプ氏について、リー監督はさらに、「あの人の手の中で聖書はしっくりきていなかったし、本人も聖書を手にするのが居心地悪そうだった。あんなのは今まで見たことがない。特に世界首脳で」と述べた。

(英語記事 George Floyd death: More large protests in US but violence falls / George Floyd death: Archbishop attacks Trump as US protests continue / George Floyd death: Spike Lee says protesters were 'not just born angry'