クレカ購買データで見る消費回復「早い業種」「遅い業種」

日経平均株価は一時1万6,000円台をつけたものの、現在は2万2,000円台に回復するなど、新型コロナウイルスの影響からの急速な切り返しを見せています。一方で実際の経済状況は深刻さが日に日に増しています。

感染第2波への警戒が続く中、我々は徐々にコロナ前の生活へと戻っていくことになりますが、完全に元に戻るには時間がかかるでしょう。今回は4月以降の消費動向を踏まえて今後の消費動向を検討していきます。


厚生労働省が示す「新しい生活様式」

緊急事態宣言解除後はどのように経済が戻っていくでしょうか。厚生労働省は国民が日常生活を取り戻すのに先立って「新しい生活様式」を提言しています。この中では基本的な感染対策、各場面別の生活様式、働き方の新しいスタイルと幅広く実践例が示されています。

施設の休業要請に関しては自治体に判断がゆだねられていますが、たとえば感染者数が最も多い東京都では、4つのステップに分けて休業要請の緩和を進めていく方針を出しています。

学校など早期の再開が求められる分野は早い段階から、居酒屋などの食事を提供する施設は営業時間を短縮して、遊興施設などは最終段階での営業再開が予想されています。

消費の回復は明暗が分かれる?

これまでの消費動向はどうなっているのでしょうか。JCBとスマートプラスのグループ会社であるナウキャストが提供している「JCB消費NOW 5月前半速報値」の主な業種(居酒屋、鉄道旅客、遊園地、ホテル)によると、新型コロナウイルス流行以前と比較して軒並み80%程度の減少。それぞれ消費額の減少よりも消費機会の減少による影響が大きくなっています。

減少の要因は外出自粛によるもので、緊急事態宣言が解除された6月以降は一定の回復が見込まれますが、業種によって回復状況は変わってくるでしょう。

この中でも特に回復が見込まれるのは鉄道旅客と居酒屋です。今週から多くの企業で通勤が再開となり、学校の再開により鉄道旅客は早期の回復が予想されます。また、居酒屋も短縮営業ではあるものの、通勤を再開したビジネスパーソンの来店により回復が見込まれます。

一方で回復に時間がかかりそうな業種もあります。遊興施設にあたる遊園地は依然として多くの自治体で営業再開が慎重になっており、東京ディズニーリゾートでは臨時休園が続いています。

また、長距離の移動を伴う旅行などは控えることが求められているため、ホテルなどの宿泊施設は回復が遅れることが予想されます。以上の例のように、業種によって元の消費の水準に戻るスピードにはかなりバラツキが出ることが予想されます。

<写真:森田直樹/アフロ>

コロナで衣料品の購買が変わる

この2ヵ月で急速に日常に浸透したのは「オンライン」ではないでしょうか。オンライン飲み、オンライン学習、オンライン会議とさまざまな局面でオンラインツールが用いられるようになりました。

ここでは特に衣料品の購買の変化に注目していきたいと思います。変化が考えられる要因は大きく2点挙げられます。

まずは新しい働き方による需要の変化です。着々と進められていた働き方改革も新型コロナウイルスを機に急速に進む形になりました。緊急事態宣言中に行われたリクルート住まいカンパニーの調査によれば、2020年4月時点でのリモートワーク導入企業は47%に及んでいます。

厚生労働省の提示する「新しい生活様式」の中でもテレワークやローテンション勤務が推奨されており、従来のオフィスへの通勤が当たり前とされていた状況からリモートワークとの併用が進むのではないでしょうか。その結果、洋服の消費にも影響が考えられます。

たとえばビジネスパーソンの場合、オフィスに行く回数が減るとスーツ・Yシャツを着る回数が減ります。衣服は消耗品ですので、回数が減れば消耗具合も緩和され、買い替えのタイミングが遅くなっていきます。

このようにして衣料品の購買機会が減少していくことが考えられます。実際に4月分の商業動態統計速報によれば、店舗閉鎖の影響などもありますが、「織物・衣服・身の回り品 小売業」は前年比で▲39.8%の低下となっています。

続いて、購入方法のオンラインシフトも考えられます。JCB消費NOWの「EC_織物・衣服・身の回り品 小売業」における年齢別の購買状況を見てみると、年代ごとにバラツキはあるものの、若い世代でのECの利用増加が顕著です。

いままで実店舗に足を運んでサイズや生地の確認などをしていた消費者も、この機会にオンラインでの購入を経験したケースも多いと考えられます。消費者の中での店舗のあり方が変わり、今後はオンラインへのシフトが急速に進むかもしれません。

特別定額給付金は支えとなるか?

各国でさまざまな支援策が発表されている中、日本でも家計支援のための10万円の特別定額給付金が支払われることになりました。給付が始まっている自治体もありますが、今後本格的に給付が進むことが予想されます。しかし、給付金は経済回復の一助となるのでしょうか。

例として一足先に給付が始まっているアメリカの消費動向を見てみましょう。先日発表されたアメリカの4月分の統計では給付金等の影響により個人所得は+10.5% と大幅に増えたものの、個人消費は△13.6%と前月に続き大幅に減少しています。つまり、給付されたお金は使うのではなく将来に備えて貯蓄をしている傾向が見て取れます。

日本でもアメリカ同様に給付金があまり消費に回らない可能性もあります。実際に、リーマンショック時に実施された定額給付金では、消費に回ったのは受給額の25%でした。また、特別定額給付金の使い道について聞いたマイナビニュースの調査では、約36%が貯金と回答しています。国民の消費がV字回復へ向かうにはもう少し時間がかかりそうです。

<文:Finatextグループアナリスト 菅原良介>

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